最新記事

韓国

「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

2019年11月29日(金)16時15分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

韓国空軍が所有するF35ステルス戦闘機 Jeon Heon-kyun/RTEUTERS

<GSOMIAをめぐって米韓関係に大きなしこりが残った今、日本との空軍力の格差を縮めるのは容易ではないという懸念が>

開発費に8兆ウォン(約7400億円)以上が投入される韓国の次期戦闘機(KF-X)事業に暗雲が立ち込めていると、韓国メディアが報じている。

2016年1月に開始され、昨年6月に基本設計が完了したKF-Xは、ハードウェアとソフトウェアの詳細設計を完了して部品製作が進行中とされる。試作1号機は2022年上半期の初飛行が目標で、2026年までに開発完了の予定となっている。

だが、果たして計画が予定通りに進むかは、きわめて怪しい。韓国紙・世界日報によれば、「KF-Xに装着する空対空、空対地兵装を機体と統合する問題が難航している。レーダーを潜り抜けるステルス機能も、KF-Xの開発主体である韓国航空宇宙産業(KAI)と防衛事業庁の予想を下回る可能性が提起されている」という。

このうち、兵装と機体の統合が難航しているのは、米国が関連技術の共有を拒否しているからだ。

米国が、韓国への軍事技術の提供を拒否するのは今に始まったことではない。最近ではほかに、米海軍傘下の海洋システムコマンド(NAVSEA)のプログラム分析官であるジェームズ・キャンベル氏が先月28日(現地時間)、ワシントンDCで開かれた不拡散政策教育センター主催の専門家討論会で、韓国の原潜配備推進について「米国は韓国が同盟国だとしても(原潜)技術を渡さないだろう」と語っている。

そのうえ、韓国は日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄する姿勢を見せ、米国から不興を買った。GSOMIAの破棄はいったん回避されたが、米韓には大きなしこりが残った。今後、KF-X事業などで、米国がさらに非協力的になるのは想像に難くない。

こうした状況に、韓国の焦りは強い。韓国空軍機は相当数が旧式化しており、KF-Xの開発の遅れは致命的だ。また、ライバル視する日本の軍備増強が順調に見えるだけになおさらだ。

世界日報は9月7日付の記事で、「中国とロシアの軍用機が韓国防空識別圏(KADIZ)に不正進入し、KADIZを無力化しようと試みている状況で、日本の空軍力の強化は、周辺国を緊張させている」と指摘。次のように続けた。

「日本は『攻撃を受けた時に防衛力を行使する』という専守防衛の原則が毀損される懸念を抱えながらも、長距離打撃能力を強化する動きを見せている。既存の保有戦闘機を改良する一方、2030年代半ばを目標に新型ステルス戦闘機の開発に着手する態勢だ。天文学的な国防予算を投入している日本の空軍力強化は、すでに専守防衛の原則を維持するレベルを超えていると評価されている」

さらに、日韓が置かれた状況について「韓国も、既存の戦力増強事業を進めながら、F-15K戦闘機の性能改良などを新たに推進しているが、日本との空軍力の格差を縮めるのは容易ではないという懸念が出ている」と述べている。

<参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」...そして北朝鮮は

このような論調を見ると、果たして韓国では日米韓の安保協力がどのように捉えられているのか考えさせられるが、少なくとも軍事専門記者たちは、東アジアの軍事バランスを正確に見ているように思える。

<参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中