最新記事

環境

アメリカ大陸最大のネコ科動物を脅かす水銀の霧

Toxic Fog Threatens California’s Mountain Lions

2019年11月28日(木)18時24分
ロージー・マッコール

太平洋岸のピューマの体内には水銀が蓄積されている  Sebastian Kennerknecht

<迫る新たな脅威が確認された。海からくる、猛毒のメチル水銀を含んだ霧だ>

米カリフォルニア州のサンタクルーズ山脈に生息するピューマの体内に、高濃度のメチル水銀が蓄積されていることが調査で分かった。水銀は海上で発生する霧とともに沿岸部に運ばれてくるようだ。

太平洋岸に生息するピューマの体内からは内陸部のピューマと比べ3倍の濃度の水銀が検出されており、生殖機能の低下により、この地域のピューマが絶滅に追い込まれるおそれもあると、科学誌ネイチャーに掲載された論文は警告している。

水銀は火山活動などで自然に発生する元素で、石炭の燃焼や鉱物採掘など人間の活動でも大気中に放出される。

大気中に放出された水銀の粒子は、雨粒に取り込まれて海洋に降り注ぎ、海底でバクテリアに分解されて極めて毒性の強いメチル水銀となる。海水の循環に伴って海面近くに運ばれてきたメチル水銀は、霧に取り込まれて再び大気中に漂い、陸上の食物連鎖に入り込む。

論文によれば、食物連鎖の頂点に位置する捕食動物(この場合はピューマ)に至るまで、メチル水銀の生物濃縮をたどった調査はこれが初めてだ。

地衣類からピューマまで、食物連鎖の各段階で異常な濃度の水銀が検出され、段階を上がるごとに1000倍かそれ以上に濃縮されることが分かったと、調査チームは報告している。

ピューマと3匹の子ども、テキサス州での厳しい暮らし


神経系を破壊する毒

「地衣類には根がないので、高濃度のメチル水銀は大気中から取り込まれたと考えられる」と、論文の執筆者の1人、環境毒性学者のピーター・ワイスペンジアスは声明で述べている。「水銀は食物連鎖の上に行くにつれて、生物の体内でどんどん濃縮される」

水銀にさらされると、神経系が損傷を受け、神経系、消化器系、免疫系の疾患を発症し、死に至ることもある。だが霧に含まれる水銀の濃度は人体に影響を与えるレベルではなく、海岸を歩いても大丈夫だと、調査チームは強調している。

とはいえ霧中の水銀は、カリフォルニア州のピューマには脅威になる。この地域のピューマは既に様々な危険(その多くは人為的なもの)にさらされている。スポーツ狩猟、生息地の喪失、交通事故などだ。カリフォルニア州の道路では毎年ざっと100頭のピューマが車に轢かれて死んでいると、サンフランシスコ・クロニクル紙は報じている。

「霧中の水銀は、それでなくとも人為的な影響があまりに多いサンタクルーズ山脈のような環境で生き延びようとしている動物に追い打ちをかけるだろう。ただし、どの程度影響があるかはまだ分かっていない」と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の環境研究の教授で、論文のシニア執筆者でもあり、ピューマ・プロジェクトを率いるクリス・ウィルマーズは言う。

<参考記事>トランプ「動物虐待防止法」に署名で批判再燃、息子たちの猛獣殺し
<参考記事>コアラ受難、オーストラリアの山火事で絶滅の危機

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中