ミャンマー少数民族問題の新たな火種──仏教徒ゲリラ「アラカン軍」という難題
Minority Report
もう1つ彼らが不満を募らせているのが、中国資本の経済開発だ。1988年に誕生した軍事政権下で国際的に孤立したミャンマーは、隣国・中国に依存するようになる。1990年代から対外援助を利用して自国経済の発展を目指した中国は、ミャンマーへの経済・軍事協力を続け、両者は親密さを増していった。
「一帯一路」構想が打ち出されると、インド洋に面し、豊富な天然資源を擁するラカイン州でも、中国資本の経済開発が盛んに行われるようになる。だが、こうした開発の収益は中国企業と中央政府で分配されているため、地元にはほとんど還元されていない。
民主化の象徴だったスーチーの再起には、ラカイン人も期待を寄せた。ところが、地元の民族政党アラカン国民党(ANP)のミャウー支部で書記を務めるタンニーウィン(33)は、「スーチー氏が政権トップになって3年が過ぎたが、変化は感じられず、NLDに対する失望が広がっている」と話す。誰も助けてくれないのなら独立しかない──ラカイン人の積年の鬱屈を晴らす唯一の希望がアラカン軍なのだ。
ミャンマーがいつまでも紛争から抜け出せない背景には、戦いに乗じて甘い汁を吸おうとする当事者の思惑がある。
ミャンマーの武装勢力の中でも「全国停戦協定(NCA)」に同意していないのは、主に中国との国境地帯を拠点にする武装勢力だ。彼らはもともと民族・文化的に中国に近く、1980年代までは中国共産党の支援を受けて反政府活動を展開していたビルマ共産党(CPB)に協力していた。そのため、中国とはいまだに強い結び付きがあり、北部の少数民族であるワ人やコーカン人の武装組織のリーダーは、資金集めや健康診断のために中国への自由な出入りが許されているという報告もある。
また、ミャンマーと国境を接する中国・雲南省の商人を相手にした材木やヒスイ、麻薬などの密貿易は武装組織の重要な資金源になっている。中国とのビジネスで強固な財政基盤を築いている北部の武装組織は、停戦協定に応じる必要などないのだ。
不満を募らせつつも、アラカン軍にとって、中国とのつながりは魅力的でもある。実行支配地域で中国と貿易を行う北部の民族に比べると、領地を持たないアラカン軍は資金力が弱く、武器の供給も安定しない。だが、中国と組めば状況は変わる。情報筋は「アラカン軍が近頃、国軍兵士を人質に取るなどの大掛かりな作戦を実行するのは中国からの歓心を買うためだ」と分析する。アラカン軍の司令官タワンムラナイン(41)は、最近ラカイン州における中国の経済開発を歓迎する主旨の発言もしている。
紛争が秩序の前提に
中国も、実はミャンマーで紛争が続くことを望んでいる。政情が安定し過ぎると、ミャンマーは欧米との関係改善に乗り出す。それで中国離れが進めば一帯一路に支障が出る。