高齢世帯の貯蓄額を、平均値で見てはいけない理由
高齢世帯では貯蓄ゼロの世帯が最も多い Koji_Ishii/iStock.
<統計データの代表値として平均値が良く使われるが、数値の分布がばらけている統計では、平均値だけを見ても実態を把握できないことがある>
統計データと言うのは、最初は数字の羅列で、それを整理する第一歩は度数分布表の形にすることだ。しかし、報告書に度数分布表を逐一載せることはできない。そこで、データの特性を端的に表す代表値が使われる。
代表値としては最頻値(mode)、平均値(average)、中央値(median)がある。最頻値はデータの個数が最も多い階級、平均値は総和を個数で除したもの、中央値は高い順に並べたとき真ん中にくる値だ。
要は、普通を知るための目安だ。現代の日本社会では老後の不安が渦巻いているが、2016年の厚労省『国民生活基礎調査』の結果概要によると、高齢世帯(世帯主が65歳以上)の平均貯蓄額は1284万円となっている。さすがというか、ガッツリ貯め込んでいる印象を受ける。だが、これをもって高齢世帯の普通の貯蓄額とみなしていいものだろうか?
平均値に丸める前の度数分布表に当たってみると、<表1>のようになる。
普通のデータは中層が膨らんだ分布になるのだが、高齢世帯の貯蓄額はそうではない。上と下に分化した型になっている。貯め込んでいる世帯が多いが、スッカラカンの世帯も多い。最も多いのは貯蓄ゼロの世帯となっている。最頻階級はゼロだ。
ちょうど真ん中の中央値は、右端の累積相対度数から500~600万円台の階級に含まれることが分かる。累積%が50ジャストの中央値を按分比例で割り出すと602万円となる。報告書に出ている平均値の半分にも満たない。普通の値としてふさわしいのは、ど真ん中の中央値だ。平均値は、一部の極端に高い値によって釣り上げられた結果に他ならない。
高齢世帯の貯蓄状況について説明するときは、「平均値は1284万円」ではなく、「最も多いのは貯蓄ゼロの世帯で、中央値は602万円」と言うべきだ。どちらを取るかで、政策の方向は大きく変わってくる。<表1>の分布表から分かるように、平均値の1284万円を越える世帯は全体の3割ほどしかない。平均で全体を語ると、おかしなことになる。