最新記事

日本経済

高齢世帯の貯蓄額を、平均値で見てはいけない理由

2019年11月27日(水)17時10分
舞田敏彦(教育社会学者)

高齢世帯では貯蓄ゼロの世帯が最も多い Koji_Ishii/iStock.

<統計データの代表値として平均値が良く使われるが、数値の分布がばらけている統計では、平均値だけを見ても実態を把握できないことがある>

統計データと言うのは、最初は数字の羅列で、それを整理する第一歩は度数分布表の形にすることだ。しかし、報告書に度数分布表を逐一載せることはできない。そこで、データの特性を端的に表す代表値が使われる。

代表値としては最頻値(mode)、平均値(average)、中央値(median)がある。最頻値はデータの個数が最も多い階級、平均値は総和を個数で除したもの、中央値は高い順に並べたとき真ん中にくる値だ。

要は、普通を知るための目安だ。現代の日本社会では老後の不安が渦巻いているが、2016年の厚労省『国民生活基礎調査』の結果概要によると、高齢世帯(世帯主が65歳以上)の平均貯蓄額は1284万円となっている。さすがというか、ガッツリ貯め込んでいる印象を受ける。だが、これをもって高齢世帯の普通の貯蓄額とみなしていいものだろうか?

平均値に丸める前の度数分布表に当たってみると、<表1>のようになる。

data191127-chart01.jpg

普通のデータは中層が膨らんだ分布になるのだが、高齢世帯の貯蓄額はそうではない。上と下に分化した型になっている。貯め込んでいる世帯が多いが、スッカラカンの世帯も多い。最も多いのは貯蓄ゼロの世帯となっている。最頻階級はゼロだ。

ちょうど真ん中の中央値は、右端の累積相対度数から500~600万円台の階級に含まれることが分かる。累積%が50ジャストの中央値を按分比例で割り出すと602万円となる。報告書に出ている平均値の半分にも満たない。普通の値としてふさわしいのは、ど真ん中の中央値だ。平均値は、一部の極端に高い値によって釣り上げられた結果に他ならない。

高齢世帯の貯蓄状況について説明するときは、「平均値は1284万円」ではなく、「最も多いのは貯蓄ゼロの世帯で、中央値は602万円」と言うべきだ。どちらを取るかで、政策の方向は大きく変わってくる。<表1>の分布表から分かるように、平均値の1284万円を越える世帯は全体の3割ほどしかない。平均で全体を語ると、おかしなことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中