最新記事

脳科学

半分切除された脳は、結合を強めて失った機能を補う

Removing Half the Brain Appears to Boost Brain Connectivity

2019年11月22日(金)15時45分
ロージー・マッコール

この半分しかない脳でも普通に話したり歩いたりできる CALTECH BRAIN IMAGING CENTER

<子どもの頃に手術で脳の半分を切除した6人が、回復して普通に話したり歩いたりできる理由は>

子どもの頃に脳の半分を失った成人6人を調べたところ、彼らの脳の神経回路の結合強度は健康な一般人と変わらないどころか、一般人より「著しく」強い場合さえあることが分かった。

学術雑誌セル・リポーツに発表された論文によれば、脳は大掛かりな手術に順応し、脳が半分になる前と同じように体を動かし、機能させ、目的を達成できるよう自らを再編できる。

「脳はどうにかして、残された神経回路を使って、手術で失われた領域の機能を補っている」と、論文を読んだブラウン大学カーニー脳科学研究所のワエル・アサード准教授(神経科学)は言う。

「子どもの脳は一般に、大人よりも再編しやすい(神経可逆性がある)ことが分かっている。その再編のひとつの形が神経回路の結合の強化だったことは、興味深い」

<参考記事>ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

「実際に会うと脳が半分だなんて信じられない」

研究に協力した6人は子どもの頃にてんかんを患い、重度の発作が起きないようにするため脳の半分を切除する手術(大脳半球切除手術)を受けた。つまり脳の半分しか残っていないのだが、それでも言語能力に問題はなく、心身ともに高い機能を維持している。健康情報サイトのWeb MDによれば、「(この手術を受けた)多くの人が、特に問題もなく術後6~8週間で仕事や学校、普段の生活に戻ることが可能」だという。

論文の筆頭著者で、カリフォルニア工科大学の博士課程を修了したドーリット・クリーマンは声明の中で、「初めて彼らに会った時は、脳が半分ないことを忘れそうになった」と述べた。

「コンピューターの前で、脳が半分しかないMRI画像を見ても、今さっき話をしたり歩いたりしていた人たちのものとは信じられなかった」

研究チームは6人の協力者のMRI画像を健康な6人の画像と比較。さらに一般人1500人の脳データとも比較した。

さらに視覚、運動、感情や認知などの機能をつかさどる脳の領域の活動を分析。ここから脳の神経回路の結合状態を、間接的に測定した。

<参考記事>意識がある? 培養された「ミニ脳」はすでに倫理の境界線を超えた 科学者が警告
<参考記事>深い眠りによって脳内の老廃物が洗い流されていることがわかった:研究結果

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中