「電柱ゼロ」は幻想か? 必要性、実現可能性、普及のカギを探る
軒並み100%の欧州、8%の日本
いいことずくめのような無電柱化の進捗率は、100%を達成しているロンドンやパリといった欧州諸国の都市で軒並み高く、香港やシンガポールも100%となっている。
それに比べ、日本の水準は著しく低い。国レベル、自治体レベルで推進計画はあるものの、東京23区で8%、大阪市で6%、名古屋市で5%、他は5%に満たない状況だ。
国や自治体は無電柱化の有効性を認識していないわけではなく、普及に向けて動いている。2018年は関西、中部両電力エリアでの大規模停電も踏まえ、12月に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」が閣議決定され、「整備距離について、これまでにない高い目標が掲げられた」(経済産業省)。
2018~20年度に無電柱化を進める距離は、それまでの1400キロに、「重要インフラ緊急点検」として1000キロを追加して計2400キロとする計画だ。過去最も早かった時期の2倍近い、1年で800キロを整備するペースとなり、意気込みがうかがえる。
普及を阻む一番のネックは、地中に埋める作業のコストだ。
従来、日本は主に「電線共同溝」と呼ばれる方式を採用してきた。電気や電話の配線、光ファイバーなどをまとめて納めている「管路」を地中に通す工法だ。地形条件などにもよるが、一般に総工事費は1キロ当たり約5.3億円と見込まれ、同じ距離に電柱によって電線を架すやり方の5倍とも、10倍とも言われる。
そのため、国土交通省や経産省が連携してコスト低減に知恵を絞っている。具体的に検討が進んでいるのは、埋設方法の変更と、埋設に必要な機器や設備の改良などだ。
中でも「電線共同溝」から「直接埋設」に切り替えることによる低コスト化が期待されている。直接埋設は、砂などで保護した配線をじかに地中に埋める工法で、ロンドンやパリといった無電柱化の先進都市で多く採用されている。管路を必要としないため、掘削する土や資材が少なくて済む。1キロ当たりの土木工事費を比べた場合、電線共同溝の3.5億円に対し、直接埋設は8000万円とコストが抑えられるという(コストには、他に電気・通信設備工事にかかる費用、約1.8億円がある)。