危険だらけの韓国造船所 財閥系企業の下請け労働者に悲劇続く
パク・チョルヒさんの弟は、クレーン同士の衝突事故で亡くなった。写真は10月18日、ソウルで撮影(2019年 ロイター/Kim Hong-Ji)
パク・チョルヒさんの突然の悲劇は、2年前にさかのぼる。2017年の「勤労者の日」、パクさんは、サムスン重工業の巨済造船所に休日出勤していた。この日、大型クレーンが別のクレーンと衝突して倒壊し、パクさんの弟を含む6人が犠牲になった。
「爆弾が落ちたようだった」とパクさんは振り返る。そして、「遺体は言語に絶するほど損傷していた」と話した。
この日、同造船所で働いていた労働者の90%はパクさんと弟のパク・スンウさんをはじめとする下請け労働者で、その人数は1500人近くに上っていた。フランスのエネルギー大手トタルに納入する石油・ガス掘削プラットフォームの建造が仕事だった。
死亡した6人、負傷した25人も全員が下請け労働者だ。サムスンの正社員に比較して、給与は安く、労働者に対する保護も弱く、訓練も不足していた。
大企業は責任取らず
サムスンをはじめとする韓国の巨大企業グループは、コスト削減と雇用の柔軟性向上のため、下請企業や非正規労働者への依存度がますます高まっていることを認めている。だが、約25人の労働者、下請け企業幹部、専門家へのインタビューによれば、こうした大企業は労働現場での事故に関してほとんど責任を負っていないという。
また、政府の委嘱による2018年の報告書によれば、企業や当局者に対する処罰が甘く、労働災害を防止する取り組みが進んでいないという。韓国は、労働安全性の実績という点で、OECD(経済開発協力機構)諸国中、ワースト3位である。
この造船所で発生した事故は、少なくとも過去10年間で最悪の惨事だった。それから2年以上が経つが、パクさんは今も抑鬱症状やPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされているという。5月、この事故に関する裁判でサムスンの担当者が誰1人として実刑判決を受けなかったことで、パクさんの苦しみはさらに深まった。
ロイターがメールで問い合わせたところ、サムスン重工業は、事故により犠牲者が出たことを遺憾としつつ、控訴審があるため詳細は述べられないと回答した。
サムスンからのメールの署名欄には、「安全確保は経営の最優先課題」と書かれている。
仏トタルと、パクさんの直接の雇用者であるヘイドン(Haedong)は、本記事に対するコメントを拒否している。訴訟書類によれば、引き続きサムスン重工業の下請けを務めているヘイドンは告訴されていない。