危険だらけの韓国造船所 財閥系企業の下請け労働者に悲劇続く
多層的な下請け構造
朝鮮戦争による荒廃からグローバルな製造・エンジニアリング大国へと韓国経済が急速な変貌を遂げるなかで、その屋台骨となったのがサムスンなどの企業グループである。
だが専門家や業界幹部によれば、競争が激化し成長が減速していくなかで、国内で「財閥(chaebol)」と呼ばれる企業グループは、コスト削減と生産拡大のため、また需要の変動に合わせた人員削減を容易にするため、非正規労働者・下請け労働者の雇用を拡大した。
韓国では全労働者に占める非正規労働者の比率が2018年には21.2%に達した。OECD諸国平均の11.7%に比べ、約2倍である。
国費で運営される韓国労働研究所は昨年10月に発表した報告書のなかで、国内下請け企業の労働者の月収は340万ウォン(334ドル)だが、これは元請け企業における同等の労働者の所得に比べ62%にすぎない。
労働問題を専門とする弁護士で、大統領による労働諮問機関にも参加しているリョウ・スンギョウ氏は、「これはサムスンに限らず、韓国企業社会の問題だ」と話す。「企業グループは利益を持って行くが、多層的な下請け構造を生み出すことによって法的な責任を免れている」
韓国労働省は、下請け企業による安全対策に関して元請け企業の責任を強化することが「不可欠」であると述べている。
労働省はロイターへの声明のなかで、「元請け企業は、自ら統制・管理する労働現場における危険要因・リスク要因について最もよく知っている」と述べている。
さらに同省は、労働者の安全に関して元請け企業が責任を持つべき労働現場の範囲を拡大するため、労働安全関連の法律を改正したと述べている。
昨年、受注量ベースで世界首位となった韓国造船産業では、特にアウトソーシングが盛んに行われている。
韓国造船産業において下請け企業が労働力全体に占める比率は、2000年には半分以下だったものが、2014─15年には70%に達している。2017年に起きたサムスンのクレーン事故を調査した政府認定の専門家委員会による報告書が挙げた数値だ。
下請け企業は、さらにコストを削減するため、業務を二次下請けに回す。これによって「労働災害のリスク増大は避けられない」と2018年の報告書は述べている。
韓国造船産業にとって重要な顧客であるロイヤル・ダッチ・シェルの韓国事業部でシニアマネジャーを務めるジュ・ヤンキュ(Ju Young-kyu)氏はロイターに対し、多層化された下請けは、アウトソーシングの傾向が少ない中国の造船産業と比較して、「韓国造船産業に特有の性質」だと語った。
ジュ氏はさらに、事故を減らすためには低技能労働者の管理・評価を改善する必要がある、と話している。
下請け労働者を使うことによって、企業は労災保険の保険料負担を減らすことができる。
韓国最大の企業グループであるサムスン・グループは、2016年から2019年6月にかけて、労災保険料を4000億ウォン(3億3400万ドル)近くも節約した。正社員が絡む事故が減少し、下請け労働者が絡む事故については責任を負わないためだ。今年、与党国会議員2人が政府内部資料に基づいて発言した。
サムスン重工業に労災保険料と法的責任について尋ねたところ、元請け企業と下請け企業は、個別の事故における法的責任に基づいて(保険上の)責任を分担している、との回答が得られた。
他産業の下請け労働者も、やはり脆弱な立場にある。
たとえば、裁判所の判決によれば、サムスン電子に電話部品を供給しているセイル・エレクトロニクス(Seil Electronics)において昨年発生した火災では、9人が死亡、数名が負傷したとされている。
サムスン電子は、二次下請けであるセイルにおける火災について何もコメントしていない。セイルもコメントを拒否している。