最新記事

韓国

危険だらけの韓国造船所 財閥系企業の下請け労働者に悲劇続く

2019年11月7日(木)12時10分

多層的な下請け構造

朝鮮戦争による荒廃からグローバルな製造・エンジニアリング大国へと韓国経済が急速な変貌を遂げるなかで、その屋台骨となったのがサムスンなどの企業グループである。

だが専門家や業界幹部によれば、競争が激化し成長が減速していくなかで、国内で「財閥(chaebol)」と呼ばれる企業グループは、コスト削減と生産拡大のため、また需要の変動に合わせた人員削減を容易にするため、非正規労働者・下請け労働者の雇用を拡大した。

韓国では全労働者に占める非正規労働者の比率が2018年には21.2%に達した。OECD諸国平均の11.7%に比べ、約2倍である。

国費で運営される韓国労働研究所は昨年10月に発表した報告書のなかで、国内下請け企業の労働者の月収は340万ウォン(334ドル)だが、これは元請け企業における同等の労働者の所得に比べ62%にすぎない。

労働問題を専門とする弁護士で、大統領による労働諮問機関にも参加しているリョウ・スンギョウ氏は、「これはサムスンに限らず、韓国企業社会の問題だ」と話す。「企業グループは利益を持って行くが、多層的な下請け構造を生み出すことによって法的な責任を免れている」

韓国労働省は、下請け企業による安全対策に関して元請け企業の責任を強化することが「不可欠」であると述べている。

労働省はロイターへの声明のなかで、「元請け企業は、自ら統制・管理する労働現場における危険要因・リスク要因について最もよく知っている」と述べている。

さらに同省は、労働者の安全に関して元請け企業が責任を持つべき労働現場の範囲を拡大するため、労働安全関連の法律を改正したと述べている。

昨年、受注量ベースで世界首位となった韓国造船産業では、特にアウトソーシングが盛んに行われている。

韓国造船産業において下請け企業が労働力全体に占める比率は、2000年には半分以下だったものが、2014─15年には70%に達している。2017年に起きたサムスンのクレーン事故を調査した政府認定の専門家委員会による報告書が挙げた数値だ。

下請け企業は、さらにコストを削減するため、業務を二次下請けに回す。これによって「労働災害のリスク増大は避けられない」と2018年の報告書は述べている。

韓国造船産業にとって重要な顧客であるロイヤル・ダッチ・シェルの韓国事業部でシニアマネジャーを務めるジュ・ヤンキュ(Ju Young-kyu)氏はロイターに対し、多層化された下請けは、アウトソーシングの傾向が少ない中国の造船産業と比較して、「韓国造船産業に特有の性質」だと語った。

ジュ氏はさらに、事故を減らすためには低技能労働者の管理・評価を改善する必要がある、と話している。

下請け労働者を使うことによって、企業は労災保険の保険料負担を減らすことができる。

韓国最大の企業グループであるサムスン・グループは、2016年から2019年6月にかけて、労災保険料を4000億ウォン(3億3400万ドル)近くも節約した。正社員が絡む事故が減少し、下請け労働者が絡む事故については責任を負わないためだ。今年、与党国会議員2人が政府内部資料に基づいて発言した。

サムスン重工業に労災保険料と法的責任について尋ねたところ、元請け企業と下請け企業は、個別の事故における法的責任に基づいて(保険上の)責任を分担している、との回答が得られた。

他産業の下請け労働者も、やはり脆弱な立場にある。

たとえば、裁判所の判決によれば、サムスン電子に電話部品を供給しているセイル・エレクトロニクス(Seil Electronics)において昨年発生した火災では、9人が死亡、数名が負傷したとされている。

サムスン電子は、二次下請けであるセイルにおける火災について何もコメントしていない。セイルもコメントを拒否している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中