最新記事

韓国

危険だらけの韓国造船所 財閥系企業の下請け労働者に悲劇続く

2019年11月7日(木)12時10分

パク・チョルヒさんの弟は、クレーン同士の衝突事故で亡くなった。写真は10月18日、ソウルで撮影(2019年 ロイター/Kim Hong-Ji)

パク・チョルヒさんの突然の悲劇は、2年前にさかのぼる。2017年の「勤労者の日」、パクさんは、サムスン重工業の巨済造船所に休日出勤していた。この日、大型クレーンが別のクレーンと衝突して倒壊し、パクさんの弟を含む6人が犠牲になった。

「爆弾が落ちたようだった」とパクさんは振り返る。そして、「遺体は言語に絶するほど損傷していた」と話した。

この日、同造船所で働いていた労働者の90%はパクさんと弟のパク・スンウさんをはじめとする下請け労働者で、その人数は1500人近くに上っていた。フランスのエネルギー大手トタルに納入する石油・ガス掘削プラットフォームの建造が仕事だった。

死亡した6人、負傷した25人も全員が下請け労働者だ。サムスンの正社員に比較して、給与は安く、労働者に対する保護も弱く、訓練も不足していた。

大企業は責任取らず

サムスンをはじめとする韓国の巨大企業グループは、コスト削減と雇用の柔軟性向上のため、下請企業や非正規労働者への依存度がますます高まっていることを認めている。だが、約25人の労働者、下請け企業幹部、専門家へのインタビューによれば、こうした大企業は労働現場での事故に関してほとんど責任を負っていないという。

また、政府の委嘱による2018年の報告書によれば、企業や当局者に対する処罰が甘く、労働災害を防止する取り組みが進んでいないという。韓国は、労働安全性の実績という点で、OECD(経済開発協力機構)諸国中、ワースト3位である。

この造船所で発生した事故は、少なくとも過去10年間で最悪の惨事だった。それから2年以上が経つが、パクさんは今も抑鬱症状やPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされているという。5月、この事故に関する裁判でサムスンの担当者が誰1人として実刑判決を受けなかったことで、パクさんの苦しみはさらに深まった。

ロイターがメールで問い合わせたところ、サムスン重工業は、事故により犠牲者が出たことを遺憾としつつ、控訴審があるため詳細は述べられないと回答した。

サムスンからのメールの署名欄には、「安全確保は経営の最優先課題」と書かれている。

仏トタルと、パクさんの直接の雇用者であるヘイドン(Haedong)は、本記事に対するコメントを拒否している。訴訟書類によれば、引き続きサムスン重工業の下請けを務めているヘイドンは告訴されていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中