最新記事

トルコ

クルド人を追い出したその後は......思慮も展望もないエルドアンの戦争

Erdogan Has No Idea What He’s Doing

2019年10月30日(水)19時10分
スティーブン・クック(外交問題評議会上級研究員)

エルドアンがシリアに仕掛けた攻撃の目標は極めて曖昧で複雑だ Murat Kula/Presidential Press Office/REUTERS

<シリア北部に侵攻したもののそこで何を成し遂げたいのかは分からないまま>

国際的な非難も顧みずにシリア北部に侵攻したトルコのエルドアン政権は、ひたすら自らの言い分を伝えることに固執している。

トルコ側に言わせれば、今回の「平和の泉」作戦は対テロ作戦で、トルコ人に対し、そしてクルド人を含めたシリアに対して安全を提供するものだ。さらにトルコ軍が攻撃しているシリアのクルド人民兵組織・人民防衛隊(YPG)は、トルコ国内でクルド人の独立国家建設を目指す武装組織クルド労働者党(PKK)と一体のテロ組織であり、後者の実態はテロ組織ISIS(自称イスラム国)と変わらないという。

国際的な怒りと圧力がどれほど高まっても、トルコはこの主張を一歩も譲らない。だが長期的に見て、トルコはシリアで何を成し遂げたいのか。その点が見えてこない。

シリア領内に軍を派遣することで、トルコは4つの目標を達成しようとしているように見える。シリアでのクルド人国家の樹立を阻止すること、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領の人気を高めること、YPGの解体、そしてシリア難民の再定住だ。

シリア北東部にクルド人国家を築くことは、もはや考えにくい。支持率が6カ月連続で下落していたエルドアンが今回の侵攻で恩恵を受けたことは明らかだ。

しかし、残りの2つの目標はもっと複雑だ。YPGの解体とシリア難民の再定住に向けたトルコ政府の戦略は明らかではないし、そもそも存在するかどうかさえ疑わしい。

トルコはシリア側の国境沿いに南北約30キロ、東西約440キロの安全地帯を設置したいとしている。トルコ軍にはYPGを追い出す力がある。しかし安全地帯を管理・運営できるかどうかは別の話だ。

エルドアンは1万4250平方キロの安全地帯に、トルコ国内にいる約350万人のシリア難民を再定住させたい考えだ。だが対象となる住民が数十万人でも移動は困難を極め、多くの問題が噴出する。

シリアのアレッポから逃れてきた人々は、おそらくアレッポに戻りたいだろう。故郷とは呼べず、縁もゆかりもなく、治安が悪化している土地に移りたくはないはずだ。

トルコに「天罰」を望む国

シリア人を母国に定住させるために地域の安全と安定を確立するというなら、トルコ軍はシリアを「占領」しようとするかもしれない。トルコ政府に、そうした事態を回避する計画があるのだろうか。

トルコ軍はシリアで動きが取れなくなる恐れがあるというのに、エルドアンには将来の計画がないようだ。計画もなくシリアに居座れば、軍は標的となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、インフラ被災で遅れる支援 死者1万

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中