最新記事

トルコ

クルド人を追い出したその後は......思慮も展望もないエルドアンの戦争

Erdogan Has No Idea What He’s Doing

2019年10月30日(水)19時10分
スティーブン・クック(外交問題評議会上級研究員)

YPGがPKKと一体なら、いまトルコ軍がシリアで戦っている相手は、1984年以来トルコ国内で断続的に戦ってきた敵ということになる。どれほど軍事的な成功を収めていても、YPGとPKKは領土を支配するための軍隊ではない。彼らはこれまでやっていたことを続けるだろう。シリアではトルコ軍にゲリラ攻撃を仕掛け、トルコの諸都市ではテロ活動を行う。

中東の大国との軋轢や、シリア侵攻が長期化する可能性はどのような影響をもたらすのか。それらの点をトルコがどこまで見据えているのかも、はっきりしない。

エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルは、平和の泉作戦の代償をエルドアンに払わせるために単独か連携プレーでYPGを支援できる。

天罰が下ればいいと、4カ国はトルコに対して思っている。トルコ政府はエジプトの現政権を敵視し、サウジアラビアの皇太子の権威を無視し、UAEの敵対勢力を支援し、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム系過激派組織ハマスを援護するために手を尽くしてきた。利害が錯綜した結果、この反エルドアン同盟にはシリアのバシャル・アサド大統領も加わった。

プーチン依存が強まる

10月22日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領とエルドアンはロシア南部のソチで会談し、シリア北部の安定化に向けて10項目の覚書を交わした。だが果たしてトルコは、ロシアの狙いを十分に考慮しているだろうか。

エルドアンが欲しがっているのは、シリア北部の勢力圏だ。一方でプーチンの目的は、シリア全土でシリア政府の権限を再構築することにある。今回の合意では、トルコとロシアは共にシリアの領土保全を尊重するとしている。トルコは一方でYPGの崩壊を望んでおり、合意には両政府がシリア北部であらゆるテロを撲滅するために共闘することも盛り込まれた。

注目すべきなのは、モスクワにはYPG系の民主連合党(PYD)の事務所があり、トルコがシリアを侵略した際の最前線には、トルコ政府以外のほぼ誰もが過激派と認める反政府武装勢力が加わっていたことだ。こうした重大な食い違いは、いずれほころびを見せる。

ロシアがシリア紛争の新たな局面でどんな手でも使ってくる可能性を、トルコは考えているのだろうか。確かにプーチンは、前向きな態度でトルコと対話しているように見え、エルドアンは抜け目のなさで知られる。しかし米軍が撤退した今、トルコは目標達成が困難になるほどプーチンの力が必要になってくる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中