クルド人を追い出したその後は......思慮も展望もないエルドアンの戦争
Erdogan Has No Idea What He’s Doing
YPGがPKKと一体なら、いまトルコ軍がシリアで戦っている相手は、1984年以来トルコ国内で断続的に戦ってきた敵ということになる。どれほど軍事的な成功を収めていても、YPGとPKKは領土を支配するための軍隊ではない。彼らはこれまでやっていたことを続けるだろう。シリアではトルコ軍にゲリラ攻撃を仕掛け、トルコの諸都市ではテロ活動を行う。
中東の大国との軋轢や、シリア侵攻が長期化する可能性はどのような影響をもたらすのか。それらの点をトルコがどこまで見据えているのかも、はっきりしない。
エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルは、平和の泉作戦の代償をエルドアンに払わせるために単独か連携プレーでYPGを支援できる。
天罰が下ればいいと、4カ国はトルコに対して思っている。トルコ政府はエジプトの現政権を敵視し、サウジアラビアの皇太子の権威を無視し、UAEの敵対勢力を支援し、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム系過激派組織ハマスを援護するために手を尽くしてきた。利害が錯綜した結果、この反エルドアン同盟にはシリアのバシャル・アサド大統領も加わった。
プーチン依存が強まる
10月22日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領とエルドアンはロシア南部のソチで会談し、シリア北部の安定化に向けて10項目の覚書を交わした。だが果たしてトルコは、ロシアの狙いを十分に考慮しているだろうか。
エルドアンが欲しがっているのは、シリア北部の勢力圏だ。一方でプーチンの目的は、シリア全土でシリア政府の権限を再構築することにある。今回の合意では、トルコとロシアは共にシリアの領土保全を尊重するとしている。トルコは一方でYPGの崩壊を望んでおり、合意には両政府がシリア北部であらゆるテロを撲滅するために共闘することも盛り込まれた。
注目すべきなのは、モスクワにはYPG系の民主連合党(PYD)の事務所があり、トルコがシリアを侵略した際の最前線には、トルコ政府以外のほぼ誰もが過激派と認める反政府武装勢力が加わっていたことだ。こうした重大な食い違いは、いずれほころびを見せる。
ロシアがシリア紛争の新たな局面でどんな手でも使ってくる可能性を、トルコは考えているのだろうか。確かにプーチンは、前向きな態度でトルコと対話しているように見え、エルドアンは抜け目のなさで知られる。しかし米軍が撤退した今、トルコは目標達成が困難になるほどプーチンの力が必要になってくる。