ラグビー場に旭日旗はいらない
DON’T SHOW THE FLAG
日本大会が成功した証左
スコットランド戦は、試合前日に直撃した台風19号の被害が拡大するなかでのゲームでもあった。開始前には時間とともに増え続ける被災者、被災地への黙禱がささげられた。会場の横浜国際総合競技場が敷地内にある新横浜公園は鶴見川流域の多目的遊水地であり、洪水被害を低減させる機能を担っている。何事もなかったかのように開かれた試合の裏側には、ボランティアを含め名前の出てこない関係者の尽力があった。これも多くの称賛を集めた。
日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは試合当日、台風被害を選手たちに伝えたという。キャプテンのリーチマイケルが言うように「この試合は私たちだけのものじゃないと、選手たちは思っていた」のである。
今大会で日本代表は、誰もが描くことができない、想像以上のドラマの主役となった。日本中がラグビーに熱狂し、大会開始前の静寂が嘘のようなお祭り騒ぎが起きた。スコットランド戦のテレビ視聴率は瞬間最高で53.7%に達し、電車の中、飲食店、あるいは会社で人々がラグビーを話題に挙げる。これ自体は、紛れもなく日本開催が成功した証左と言えるだろう。
旭日旗が振られてきた「文脈」
成功と同時に、ラグビー憲章の精神に関わる課題が浮かび上がっていることも指摘しておく必要がある。複数の日本戦の観客席で目にした旭日旗だ。あらかじめ前提を整理しておくと、この大会で旭日旗の持ち込みは禁止されておらず、現状は試合会場で散見される程度で、大きく目立っても深刻な問題になってもいない。では、なぜ指摘するのか。それは、誤ったメッセージを発信しかねないと懸念するからだ。
まず、他のスポーツで旭日旗がどのような扱いになっているかを押さえておこう。2017年、アジア・チャンピオンズリーグに出場した川崎フロンターレは韓国チームの水原三星と対戦した際、サポーターが掲げた旭日旗をめぐりアジアサッカー連盟(AFC)から無観客試合、罰金などの処分を受けた。「旭日旗が差別的メッセージに当たる」というのが主な理由だった。
韓国のチームだから問題視した、AFCの中で韓国の声が大きいだけだという指摘は当たらない。フロンターレ側の「一部地域や相手の主張で、差別的と判断されるのは不当」という主張はAFCに退けられた。フロンターレはスイス・ローザンヌにあるスポーツ仲裁裁判所に訴えることもできたが、それは行わなかった。「判断が覆る可能性は低い」と判断したからだ。政治的な意図はない、という言い分は相手が韓国かどうかにかかわらず、スポーツの世界では国際的には通用しない。もう少し、補足しておこう。