ラグビー日本代表「多様性ジャパン」は分断と対立を超える
The United Brave Blossoms
具の見せ場はアイルランド戦、前半35分にやって来た。自陣22メートルライン付近、相手ボールのスクラムである。私の取材ノートには「ここで取られたら厳しい」とメモが書いてあった。試合後にラグビー専門ライターに聞いても「試合の分かれ目」だった場面だ。稲垣、堀江、具、トンプソンルーク、姫野和樹、ラピース......。全員が一丸になって押し返し、反則を奪う。レフェリーのジャッジが下った瞬間、具は吠えた。
19年9月21日――。ロシア戦から一夜明けた東京都内のカフェで、来日した東春に会うことができた。半袖シャツからのぞく、ぐっと太い二の腕が往年の名選手であることを物語る。東春はインタビューも日本語でこなす。子供たち(智元の兄はホンダヒートで活躍する智允〔ジユン〕)は日本に送り出した。
「僕は子供には厳しく接してきました。トレーニングも一緒にやった。楽しい環境でラグビーをしてほしいと思って、日本に送りました。智元は本当に真面目な子で、子供の時から言われたことを全部こなしてましたよ。今では真面目過ぎるくらいだから、逆に僕が『もっと楽しめ』って言ってます」と笑った。
もっとも、言葉に込められた笑いは半分で、もう半分は大舞台で気負い過ぎてしまわないかが心配という親の情だった。
ワールドカップの盛り上がりの一方で、日韓の政治は冷え込み、日本国内では韓国、さらに韓国人へのバッシングが続くなかでの来日になった。
「息子に言ったのは、おまえはラグビーで結果を出せばいい。ほかは気にするなということ。ラグビーファンは応援してくれているんですよ。(OBである)延世大学のLINEグループがあるんですけど、みんな智元が日本代表に選ばれたことを喜んでくれて、応援するメッセージが届きました」
国籍がどこかは関係なく、代表に選ばれることが誇りである。熱心なラグビーファンの思いはどの国でも同じなのだろう。インタビューの最後に、今の日本代表に外国出身者が多いことをどう考えるかを聞いてみた。日韓両国の指導者と交流する東春は、別の角度からダイバーシティーの効用を語ってくれた。
「彼らがいるから、日本ラグビーのレベルは上がっているんですよ。日常的にレベルの高い選手とポジションを競い合っているから、日本人選手のレベルは確実に上がっていますよ。日本人だけで競争していても、ここまでレベルは上がらなかったと思いますよ」