米中摩擦に翻弄される世界経済
3―多様な資本主義
中国は政府が民間の経済活動に深く関与し続けている。トランプ政権は、中国政府が国内企業を支援して国際競争力を高めることで輸出を促進するという不公正な政策を行っていることが米中貿易不均衡の原因だとして批判を強めており、政府の関与を無くさせたいと考えている。しかし、中国にとってこれは国の根幹に関わる問題で妥協はできない。貿易摩擦で経済成長率が鈍化しても中国の経済成長率は先進諸国よりも高めで、次第に経済力の格差は縮小するだろう。中国は小幅な譲歩で時間を稼いで状況が有利になるのを待つに違いない。米国と中国に代表される異なる資本主義の対立は容易には解消できるものではなく、長期にわたって存在し続けることを覚悟すべきだ。
経済発展のためには政府の介入が必要だと考えている発展途上国も少なくない。中国だけでなくこうした姿の資本主義の国が今後も経済発展に成功する可能性がある。冷戦終結で「資本主義対社会主義」という経済システムの対立は無くなった。多くの人が、世界が欧米型の資本主義に収れんすることを思い描いたが、今ではそれが期待できないのは明らかだ。
多様な資本主義が共存する可能性が高いことを前提に、異なるシステムの国々が共存・共栄できるルールを考えなければ摩擦はなくならず、相互不信が募れば報復合戦がエスカレートしてしまうだろう。同じ資本主義であっても、それぞれの国によってもともと企業も政府も行うことが許される行為が異なっている。このため、各国政府の貿易政策などに制限を加えることには限界があり、国際収支の状況などに応じて収支を均衡させるために必要な措置を政府が取れるようにするしかないのではないだろうか。
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。
[執筆者]
櫨 浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所
専務理事 エグゼクティブ・フェロー
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