最新記事

老後資金

雇用延長で老後の生活水準はどうなるか

2019年10月4日(金)19時05分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

雇用延長は、低所得世帯ほど効果が大きい macgyverhh-iStock

<一般的な夫婦が老後生活していくために必要な資金は2,000万から3,000万円と言われるが、退職を目前にしてそれだけの資金を準備できている世帯は多くない。そうした世帯に取れる選択肢として「定年以後の就労延長」「公的年金の繰下げ支給」がある>

就労延長という選択肢

生活水準は所得によって大きく異なり、一般的には所得が高いほど生活水準は高い。退職後も退職前と同程度の生活水準を維持し、かつ生存中に資産が枯渇する可能性をある程度抑えることを前提にするなら、高所得者ほど老後のためにより多くの資産を準備する必要がある。このため、年収500万円未満の世帯なら、2,000万円の資産を用意できれば老後も同様の生活水準を保てるが、年収1,000万円以上の世帯なら、6,500万円以上もの資産を用意しないと生活水準を保つことができない。

しかし、退職までの期間が相対的に短い50代に限っても、生活水準を維持できる十分な資産を用意できている世帯は少ない。およそ半数の世帯は退職後に生活水準が10%以上低下する可能性が高い1。十分な資産を用意できていない世帯にとって、就労延長は生活水準を維持するための最も有効な手段である。そこで、70歳まで働くことで、従来の生活水準を維持できる世帯がどれくらい増加するのかを確認してみた。確認にあたり、70歳まで働く場合は、働き方によらず世帯の受給できる全ての公的年金を70歳まで繰下げることとする。なお、70歳まで繰下げることで公的年金受給額は42%も増額(1月あたり0.7%×60ヶ月)される。

結論から述べると、公的年金の繰下げ支給の効果は限定的であり、生活水準の低下を抑制する効果はあまり確認できなかった。一方、就労延長の効果は大きく、パートやアルバイトの従業員として就労する場合であっても、十分な効果が確認できた。また、就労延長の効果は、所得の低い世帯ほど大きいことも分かった。以下で、その確認方法及び結果を説明していきたい。

就労延長期間中に期待できる収入

最初に、総務省労働力調査(2018年)で男性の就労状況を年齢別に確認する(図表1)。年齢が上昇するにつれ役員や自営業者の割合が増加する傾向があるものの、59歳までは大部分が正規の従業員である。60歳から64歳で非労働者と非正規の従業員の割合が増加し、正規の従業員の割合が大きく減少する。65歳から69歳においては、一般の雇用者(雇用者の内役員以外の者)のうち、正規の従業員はおよそ3分の1に過ぎず、残りの3分の2は非正規の従業員である。更に非正規の従業員のおよそ半数は、パートやアルバイトの従業員である。そこで、65歳から69歳までの就労形態として、(1)非正規の従業員として就労するパターン、(2)正規の従業員として就労するパターンに分けて考え、更に非正規の従業員として就労するパターンは、(1-1)パートやアルバイトの従業員として就労するパターンと(1-2)パート・アルバイト以外の非正規の従業員として就労するパターンに細分化する(総計3パターン)。

nissei_191004_1.jpg

――――――――
1 基礎研レポート「50代の半数はもう手遅れか-生活水準を維持可能な資産水準を年収別に推計する

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中