最新記事

米韓関係

「韓国は米国に本当のことを教えろ」北朝鮮非核化で米専門家が厳しい指摘

2019年10月3日(木)11時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

17年11月にソウルの青瓦台で共同会見を行ったトランプ米大統領と文在寅大統領 Jonathan Ernst-REUTERS

<北朝鮮に過度に期待する文在寅の姿勢を、米関係者がこれほど明白に指摘したのは珍しい>

ダニエル・ラッセル元米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は9月28日、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューで、北朝鮮の非核化を巡る米朝対話における韓国の役割について、強い不満を表明した。

参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

同氏は、韓国政府は具体的にどのような役割を果たすべきか、とする記者の質問に対し、次のように答えている。

「韓国政府は、北朝鮮が何をしているのか、動機は何なのか、事実そのままの評価を提供してトランプ政権を助けなければなりません。北朝鮮の行動と脅威、戦略について率直に評価しなければならないということです」

これはつまり、韓国の文在寅政権がこれまで、現実から乖離した見方で北朝鮮を評価し、米国が必要とする事実に基づいた情報を提供してこなかったという意味だ。

北朝鮮の「変化」に過度に期待する文在寅政権の姿勢は、すでに誰もが認識しているものだ。しかしそのことを、米国の元当局者がこれほど明白に指摘したのも珍しいかもしれない。

文在寅氏の過度な前のめり姿勢が端的に表れたのが、「南北の平和経済の実現で日本に追いつく」と宣言した8月15日の演説である。日本政府による輸出規制措置に対抗して語ったものだが、そのあまりの現実離れぶりに韓国の世論もあきれ返った。

現に、北朝鮮の対韓国窓口機関である祖国平和統一委員会は演説の翌日、報道官談話を発表し、「わが軍隊の主力を90日内に『壊滅』させ、大量殺りく兵器の除去と『住民生活の安定』などを骨子とする戦争シナリオを実戦に移すための合同軍事演習が猛烈に行われており、いわゆる反撃訓練なるものまで始まっている中で公然と北南間の『対話』をうんぬんする人物の思考は果たして健全なのか。まれに見る図々しい人だ」と文在寅氏を非難。

「(韓国当局者と)これ以上話すこともないし、再び対座する考えもない」と宣言し、同氏の平和経済構想を拒絶している。

ラッセル氏はVOAのインタビューで、次のように続けている。

「韓国の情報当局と軍当局、専門家たちは、現在の米国政府に不足している、北朝鮮に対する深い理解を持っているので、(トランプ政権の)大きな助けになるはずです。バラ色の眼鏡をかけて、北朝鮮を眺めることはとても危険です。韓国、米国、日本の間の調整は、北朝鮮問題の進展に不可欠な前提条件です。現在の韓日の葛藤と敵愾心は、北朝鮮を利するだけで、私たちの共同の利益に重要な課題を提起しています」

北朝鮮と同じ民族であり、同じ言語を使う韓国のリソースを駆使することなくして、北朝鮮を理解し、非核化へと誘導することは難しい。しかし現在の韓国政府は、その役割を果たせなくなっている。北朝鮮の変化を期待するより先に、韓国政府の変化を待望せざるを得ないのが、現在の状況なのである。

参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中