インドネシア警察、学生デモ鎮圧に実弾射撃で死者2名 取材記者にまで暴力
大学生2人の死因は実弾、警察は否定
9月26日には南東スラウェシ州クンダリ市でデモに参加していた地元大学生2人が死亡した。21歳の学生は胸の負傷、19歳のもう1人は頭部の負傷が致命傷となったというが、2人とも実弾による負傷が死因だったことがわかっている。
事態を重視したジョコ・ウィドド大統領は9月27日に大学生2人の死因に関して哀悼の意を示すとともに「徹底的な調査と捜査」を警察当局に指示したが、現地でデモ鎮圧にあたった警察側は「当時警察官はゴム弾しか所持していない」と実弾発射は警察官によるものではないとして火消しに躍起となっている。
しかしこれまでも「ゴム弾しか所持していないとする警察官が実弾を装填した銃を所持したり、実弾を発射したケースがあった」ことから地元マスコミなどは警察の「無罪主張」の弁明に深い疑いを抱いている。
取材陣を襲う警察、撮影素材消去を要求
そうしたなか、各地で事態収拾にあたる警察部隊の過剰暴力問題も浮上している。
「独立ジャーナリスト連盟(AJI)」は9月30日、一連の大学生のデモ取材をしていた記者が「警察に取材を妨害され、攻撃され、機材や撮影素材が取り押さえられるケースが多発している」と指摘。「報道の自由」の観点から治安当局に強い抗議を示した。
AJIによるとこれまでにコンパス紙の女性記者が国会近くで警察官の一般市民への暴力行為を撮影していたところ、写真と動画の消去を強要されたという。
さらにIDNタイムズの記者は警察官の学生への過剰暴力を撮影していたところ、警察官に襲撃され、やはり強制的に撮影素材を消去させられた。
このほかにテレビ局スタッフの三脚が破壊されたり、警察が投げ返す投石や催涙弾の被害に遭ったりするなどマスコミ取材が妨害される事態が複数報告されているという。
AJIでは報道法で規定された「メディアの取材を意図的に妨害した場合、最高刑で禁固2年罰金5億ルピア」という条文を挙げて、警察に実態捜査と当該警察官の処罰を求めている。
香港のデモ取材では現地入りしていたインドネシア人記者が香港警察のゴム弾を受けて負傷したニュースが大きく報道されたが、インドネシアでの大学生2人射殺のニュースも大きく取り上げられ、学生らデモ隊の怒りを増幅させるとともに警察、政府による「社会正義実現」の要求も高まっている。
10月1日に新たに召集された国会と10月20日に再選2期目の大統領就任式を迎えるジョコ・ウィドド大統領にとっては試練が待ち構えているといえる。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など