最新記事

2020 サバイバル日本戦略

【対韓国・北朝鮮】日本は「核保有した統一朝鮮」を利用せよ

DEALING WITH REUNIFIED KOREA

2019年9月27日(金)07時10分
阪堂博之(ジャーナリスト)

南北首脳会談で握手する文在寅と金正恩(2018年9月、平壌) KCNA-REUTERS

<文在寅に金正恩、日本はどう対峙すべきか。もし朝鮮半島が統一すれば、日本は敵対すべきか、それとも友好関係を維持すべきか。本誌「2020 サバイバル日本戦略」特集より>

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今年の8月15日、日本の植民地支配からの解放記念日の演説で、北朝鮮との南北統一を2045年までに実現したいと表明した。1945年から1世紀以内に、という意味だが、具体的な目標時期について明言したのは初めてだ。
20191001issue_cover200.jpg
韓国で「光復節」と名付けられた記念日では毎年、大統領が演説し、日本との関係を主題に民族意識を鼓舞してきた。日韓関係が「戦後最悪」と言われる今年は特に、文が激烈な日本非難を展開するのではないかと予想されたが、対日関係は抑制的なトーンにとどめ、2032年五輪の南北共同開催や任期内の「非核化と平和体制」確立を標榜するなど、むしろ統一志向を強く打ち出した。

しかし、北朝鮮で韓国との関係を担当する祖国平和統一委員会は翌16 日にスポークスマン談話を発表。「むなしい慶祝の辞」と切り捨て、文政権に「これ以上言うこともなく、再び対座する考えもない」と一蹴した。直接の原因は8月5日から20日まで韓国がアメリカと行った合同軍事演習だ。北朝鮮はこれに強く反発し、新型を含む短距離弾道ミサイルを次々発射した。

北朝鮮の反発の根底には、昨年9月の南北首脳会談で発表され、軍事的敵対関係の終息をうたった「平壌共同宣言」を履行する強い意思を文政権が見せないことへの不信感がある。結局はアメリカに言われるままではないか、というわけで、文政権の統一への意欲は空回りしている。

南北統一は朝鮮民族の悲願だが、簡単ではない。南北の経済的格差、体制や思想の違いなどさまざまな理由が挙げられるが、それだけにとどまらない。既に3度の南北首脳会談を行った文は韓国の歴代政権で統一への最短距離にいるように見えるが、実際には最も遠い位置にいるのかもしれない。

韓国か北朝鮮のいずれかが相手を吸収する、あるいは武力で統一するという極端なケースは除き、文政権が目指す南北平和共存体制から対話を重ね徐々に統一に至る、という比較的現実的なケースで考えてみよう。

magSR190927korea-chart.png

本誌2019年10月1日号37ページより

「統一への国民合意」は困難

韓国で統一政策を進めるには国会での審議を経て、広く国民のコンセンサスを得なければならない。統一のプロセスで重大局面になれば、当然ながら国民投票を実施する必要が生じる。だが、韓国には北朝鮮の体制を忌避する勢力がかなりの割合で存在する。若年世代は統一への関心自体が希薄だ。

金正恩(キム・ジョンウン)党委員長が国内を掌握している北朝鮮に比べ、韓国では超えるべきハードルが多い。そもそも文政権は現在、国内を掌握できていない。政治力を使って保守勢力を抱き込んで、統一という民族の悲願達成に向けて国民を一つにまとめようとはしていないのだ。大統領や側近は統一への意欲満々だが、国内融和や国民統合には関心がなさそうだ。対日関係だけでなく、大統領側近の不正疑惑でも国内世論は分裂している。統一に向けた国民のコンセンサスを得る状況にはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中