最新記事

台湾

中国本土も香港も、もう台湾人にとって安全ではない

2019年9月26日(木)18時10分
ニック・アスピンウォール

蔡が台湾総統に就任して以降、中国との関係に緊張が高まっている ASHLEY PON-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<反中姿勢とは無縁の中台交流推進派でさえ、国家安全保障上の理由?で身柄を拘束されている>

台湾人にとって、中国や香港への旅行は安全ではなくなった。最近中国で2人の台湾人が行方不明になっていたことが公になり、台湾の与党・民主進歩党(民進党)は、政治的志向に関係なく中国でトラブルに巻き込まれる恐れがあると警告した。

行方不明になった2人のうち1人は、中台間の交流を推進する南台湾両岸関係協会連合の蔡金樹(ツァイ・チンシュー)主席。昨年7月20日に福建省泉州で食品業界の会合に出席し、翌日にアモイのホテルを出た後から行方が分からない。

9月13日には台湾政府の対中交渉の窓口機関である海峡交流基金会が、蔡は1年以上前から行方不明だと認めた。台湾のテレビ番組では「国家安全保障上の理由」により身柄を拘束されたのではと取り沙汰されていた。だが蔡は反中姿勢の民進党に所属しているわけでも、台湾独立を支持しているわけでもないとみられるため、その説には疑問符が付く。

もう1人の行方不明者は、台湾の活動家の李孟居(リー・モンチュイ)。「中国の国家安全保障を危険にさらしかねない犯罪行為」の容疑で拘束したと、中国の台湾事務弁公室が認めた。李は香港でデモに参加し、フェイスブックに香港の民主化運動支持の書き込みをした後、8月20日に深圳に入って拘束されたと報じられている。彼が香港との境界付近に集結した中国の人民武装警察の写真を撮っていたという情報もある。

思い出されるのは、2017年3月に失踪した台湾の活動家の李明哲(リー・ミンチョー)の一件だ。中国政府は彼を逮捕したことを2カ月後に認め、その年のうちに国家政権転覆容疑で5年の実刑に処した。中国に在住・就労している台湾人は、100万人を超えるともみられる(ただし中台とも正確な数字は公表していない)。

今も台湾にとって、中国は最大の貿易相手国だ。若者は高い賃金を求めて海峡を渡る。中国への投資や事業展開をする起業家もいる。中国政府は昨年、台湾人の居住許可手続きを簡素化するという誘致策を取った。

「蔡英文再選」への警告

だが蔡が行方不明になった件によって、これまでの前提が崩れかけている。今までは台湾独立や民進党を支持するなど中国共産党に批判的な見解を明らかにしなければ、無事に中国で暮らしたり働いたりできると、多くの台湾人が思っていた。

今回の2人の例で浮き彫りになったのは、独立派の民進党が総統選に勝った2016年から中国側が台湾当局との接触に消極的になっていることだ。拘束している台湾人の情報を、なかなか提供しなくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中