ラグビーが統合する南北アイルランド
現在は新たな課題もみえている。アイルランド共和国とイギリスの両方がEU(欧州連合)に加盟して以来、北と南の古い対立感情は改善されてきたが、イギリスのEU離脱の可能性が高まっている今、国境を超えた共通理解の精神の真価が問われている。ブレグジット後に通関手続きを伴う厳格な国境が復活すれば、南と北の関係にどんな影響が及ぶのか。
それでも過去の歴史を振り返れば、「アイルランドは1つ」というラグビーの精神が簡単に崩壊するとは考えにくい。「信じ難いことだが、これまでは何とかうまくやって来た」と、元代表主将のブライアン・オドリスコールは自身が制作した昨年のドキュメンタリーで語っている。「『アイルランドとは何か』について、(北と南の)ファンの間に共通点はない。それでも(試合がある)土曜日の午後の数時間は、1つの国になれる。そのことにすごく大きな誇りを感じるんだ」
ラグビーは荒々しく激しいスポーツだが、少なくともアイルランドでは平和の懸け橋の役割も果たしている。
<本誌2019年10月1日号掲載>
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