最新記事

不法移民

米労働市場は不法就労が支える

Working in the Shadows

2019年9月12日(木)17時45分
アッシャー・ストックラー

magw190912_IllegalImmigrant2.jpg

移民関税執行局は8月、ミシシッピ州で680人の不法就労者を拘束した A MASON-ICE PUBLIC AFFAIRS

移民労働者の労災補償問題を扱うことが多いノースカロライナ州の弁護士ジェイ・ジャーバジは、自分が担当した労災訴訟の大半で「雇用主は当該従業員が不法滞在であることを完全に認識していた」と言う。「彼らが不法移民であることを逆手に取って、補償申請をさせないようにする雇用主もいた」

しかし、企業のトップが不法移民の雇用を把握しているとは限らない。多くの場合、不法滞在者の雇用を認識しているのは中間管理職のみで、経営陣の責任を問うのは難しい。

「こうした場合に司法の裁きがどうなるかは、どんな分野でも同じだ」と、弁護士のオアは言う。「社会的な地位が低いと実刑を食らうが、上の者は制裁金で済む」

しかしICEのブライアン・コックス報道官は、ICEが雇用主の訴追を優先していないという指摘は「全くの事実無根」と主張する。

コックスによれば、ICEの国土安全保障調査部(HSI)は雇用主に対する法の執行にも積極的だ。この7月には、雇った不法移民に現金で給与を支給することで20年間も源泉税の納付を回避していたテネシー州の食肉加工業者が検挙され、1年6カ月の実刑を科されたという。

改革よりも景気が大事

コックスは、2018会計年度には不法移民と「知りながら」雇った経営者72人が訴追されているとも主張した。しかし、この数字は前年度とほとんど変わっていない。一方で、不法滞在の労働者の逮捕件数は前年度の数倍に増加していた。

匿名を条件に取材に応じたHSIの元高官は、雇用現場における不法移民の取り締まりは何年も前から変わっていないと言う。連邦レベルでの制度改革が進まないからだ。

「今でもジョージ・W・ブッシュ政権やオバマ政権の頃と同じやり方だ」と、両政権下で働いていたこの人物は指摘する。「こちらは立件した事案を司法省に報告するが、訴追するかどうかの判断はあちらに委ねられる。HSIがどれだけ捜査しても、司法省の訴追の優先順位に合致しなければ後回しになる」

しかし、刑事訴追の不均衡や複雑さは問題の一部にすぎない。過去数十年で、アメリカに暮らす不法移民は確実に増えている(ピュー・リサーチセンターによれば2017年の時点で約1050万人)。だが連邦議会は包括的な移民制度の見直しを怠り、現にこの国に暮らし、働いて社会に貢献している彼らを不安定な状態に放置してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マネタリーベース、2月は前年比1.8%減 年金払い

ワールド

EUデジタルサービス法、米国の言論の自由と相いれず

ビジネス

香港市場で21年以来最大の新株発行、中国BYDが5

ビジネス

アマゾンAWS、インドに今後数年で82億ドル投資へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    生地越しにバストトップがあらわ、股間に銃...マドン…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中