米労働市場は不法就労が支える
Working in the Shadows
移民労働者の労災補償問題を扱うことが多いノースカロライナ州の弁護士ジェイ・ジャーバジは、自分が担当した労災訴訟の大半で「雇用主は当該従業員が不法滞在であることを完全に認識していた」と言う。「彼らが不法移民であることを逆手に取って、補償申請をさせないようにする雇用主もいた」
しかし、企業のトップが不法移民の雇用を把握しているとは限らない。多くの場合、不法滞在者の雇用を認識しているのは中間管理職のみで、経営陣の責任を問うのは難しい。
「こうした場合に司法の裁きがどうなるかは、どんな分野でも同じだ」と、弁護士のオアは言う。「社会的な地位が低いと実刑を食らうが、上の者は制裁金で済む」
しかしICEのブライアン・コックス報道官は、ICEが雇用主の訴追を優先していないという指摘は「全くの事実無根」と主張する。
コックスによれば、ICEの国土安全保障調査部(HSI)は雇用主に対する法の執行にも積極的だ。この7月には、雇った不法移民に現金で給与を支給することで20年間も源泉税の納付を回避していたテネシー州の食肉加工業者が検挙され、1年6カ月の実刑を科されたという。
改革よりも景気が大事
コックスは、2018会計年度には不法移民と「知りながら」雇った経営者72人が訴追されているとも主張した。しかし、この数字は前年度とほとんど変わっていない。一方で、不法滞在の労働者の逮捕件数は前年度の数倍に増加していた。
匿名を条件に取材に応じたHSIの元高官は、雇用現場における不法移民の取り締まりは何年も前から変わっていないと言う。連邦レベルでの制度改革が進まないからだ。
「今でもジョージ・W・ブッシュ政権やオバマ政権の頃と同じやり方だ」と、両政権下で働いていたこの人物は指摘する。「こちらは立件した事案を司法省に報告するが、訴追するかどうかの判断はあちらに委ねられる。HSIがどれだけ捜査しても、司法省の訴追の優先順位に合致しなければ後回しになる」
しかし、刑事訴追の不均衡や複雑さは問題の一部にすぎない。過去数十年で、アメリカに暮らす不法移民は確実に増えている(ピュー・リサーチセンターによれば2017年の時点で約1050万人)。だが連邦議会は包括的な移民制度の見直しを怠り、現にこの国に暮らし、働いて社会に貢献している彼らを不安定な状態に放置してきた。