米労働市場は不法就労が支える
Working in the Shadows
本誌が話を聞いたほぼ全ての専門家が、移民擁護派かどうかにかかわらず、現在の制度には根本的な欠陥があり、ほとんど機能していないと指摘した。
移民受け入れの制度改革は進まなくても、肉体労働の現場ではますます人手不足が顕著になっている。とりわけ農業部門の状況は深刻だ。2017年の農業・食品ビジネス分野の雇用者数はパートを含めて2200万弱で、アメリカの雇用全体の11%を占めていた。
「一般に需要と供給の法則は成文法に勝る。今の政治家と議会は、アメリカのビジネスの活気を維持するためなら、不法滞在労働者の闇市場を利用することもいとわない」と、全米移民弁護士協会のジェレミー・マッキニー執行委員は言う。
労働省の統計によれば、既にアメリカの農業部門で働く季節労働者の49%は、正規の就労資格を持たない移民だ。
彼らのほとんどは家族を母国に残しており、アメリカの社会保障の受給資格もない。だから最低限の医療費や住居費は雇用主が負担することになる。つまり雇用主は、彼らが不法就労者であることを承知で雇い、その事実を隠そうとしている。
さらに労働省の統計によれば、農業労働者の15%は雇用主が提供する家に暮らしているが、出稼ぎ労働者に限ればその割合は3倍近くに上る。
「農業に従事する不法就労者に住居や交通手段を提供し、労働できる環境を整えているのは雇用主だ」と、前出の元HSI高官も指摘する。「そして不当な低賃金で長時間働かせる。多くの経費が給与から差し引かれ、手元に残るのはごくわずかだ」。要するに不法就労者はアメリカ農業のビジネスモデルに組み込まれているのかと問うと、元高官は「そうだ」と答えた。
制度も政府も信用できず
マッキニーは、誰が見ても不公正な現行制度によって犠牲になるのはいつも労働者だと強調する。一方で、雇用主の罪が問われることは少ない。「アメリカの移民制度が壊れていることは誰もが理解している。雇用関係から見ると、壊れているのは法を執行する側だ」と、マッキニーは指摘する。
「往々にして、雇用主は法的な訴追を受けない。制度は機能不全だし、手続きは長期に及び、罰金の額は少な過ぎる。だが、労働者にはその壊れたシステムが全力で適用される」。この二重基準は理解不能だと、マッキニーは嘆く。
政府が経済的要請(深刻な人手不足)と移民法規(不法移民は退去処分)の板挟みで身動きできない一方、農業現場で働く不法滞在者は常に危険と隣り合わせだ。ミシシッピ州の一斉摘発で家族を拘束された人々はいまだに再会もかなわないと、そうした家族を支援する団体の弁護士アミーリア・マッゴーワンは言う。