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ドラマ『チェルノブイリ』、事実がまっすぐ伝えられない状況は、まさに今の日本の姿だ

──エミー賞19部門ノミネート。シリアスだが、エンターテイメント性も高く大ヒット

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2019年9月13日(金)11時00分
速水健朗

あの大事故をドラマで再現する『チェルノブイリ』

人類最大の事故をドラマ化。『チェルノブイリ』は「事実」のゆくえを描く

テクノロジーによる人類最大の事故は、人類が作った最大の人工国家で発生した。1986年4月のチェルノブイリ原発事故である。当時のソ連でのできごと。ドラマ『チェルノブイリ』は、そんな人類最大の事故に直面した上から下まで人々の大騒動をドラマで再現する。上は、ゴルバチョフ書記長。下は、消防隊員やその妻、炭鉱夫、科学者たちである。

ドラマが描くものは、"事実(ファクト)"のゆくえである。人や組織が事実を受け入れることの難しさ。これはむしろ今のテーマである。嘘であろうとそれを事実と捉え、広がってしまうSNS。歴史的事実ですら、ネットの検索ではぶれた答えしか見つからない検索の先の世界。ドラマを観てしまった今では、どれもがチェルノブイリ的な世界に見える。

この発電所の正式名?──「VIレーニン記念原子力発電所」

1986年4月26日の1時23分に爆発が発生。制御室にて最初の報告を受けるディアトロフ副技師長は、担当の所員に、タービンホールの火災か? 非常用タンクの爆発か? と問う。実際には重大な炉の爆発が起きているが、報告者がその可能性を口にすることを許さない。自分が背負う責任の重さに絶えきれないのだ。

序盤は、会議シーンの連続だ。当初のディアトロフの誤った認識は、そのまま会議を通じて上層部へと報告されていき、最終的にゴルバチョフ書記長の元に「アンダーコントロール」として伝わる。実際には、まだ火災すら放置され、炉心融解が進行している状態だというのに。一歩外に出て見れば空気が発光している。放射線の知識があれば事態を理解できるはずと専門家は思うが、それすら伝わらない。会議で伝わらないのも言わずもがな。誰かが責任を取らされる事態において"事実"は、見ないものとされ、遠ざけられるのだ。

プリピャチ市(チェルノブイリはこの市の郊外に建っている)執行委員会の会議シーンは、ドラマの中でもとくに印象的な場面だ。メンバーの一部が不安から質問を発している中、とある老人のひとことで場の空気が一転する。「この発電所の正式名を知っているか? 皆がチェルノブイリと呼ぶが──」。正式名称「VIレーニン記念原子力発電所」。入り口にはレーニン像が飾られている。祖国の偉大な指導者の名を出した老人は、「政府は危険はないと言っている。信じようじゃないか」と結ぶ。このひとことで事故の地元であるプリピャチ市5万人の市民の移動禁止され、通信が遮断される。

1986年のソ連、連邦内の統一はやや揺らいでいる......

1986年当時のソ連にも触れておこう。連邦内の統一はやや揺らいでいる。これ以前の時代であれば、事故は共産党の指導者の鶴の一声で隠蔽できたはずだ。ゴルバチョフは、まず連邦内の国に謝罪を表明する発言が描かれる。諸外国との関係も変化しつつあった。当時はまだ冷戦中だが、1月に、ゴルバチョフとレーガンはテレビメッセージで新年の挨拶を交わしたばかり。さらに軍事力よりも市場経済の優位が示されつつあった。ソ連は西側商品市場への歩み寄りを始めざるを得なかった。その中では、自分たちの隠蔽体質を改め、国際的な信頼を得ていく必要に迫られていた。そんな矢先に起きたのがチェルノブイリの事故だったのだ。

ドラマでは、多くの市井の人々が命をかけて事故の対処に当たるさまも描かれる。消防隊員や地下の補強のためにトンネルを掘る炭鉱夫たち。ロボットでも近づけない建屋の屋上を決死の覚悟で危険物の撤去作業をする者たち。祖国の未来に身を投じる犠牲者たちの数も増える。その裏側で少しずつ原因に近づき、最善策を見出すのがレガソフ博士とボリス副議長と核物理学者の女性ホミュック。彼らは、事故の原因の背景にあったある秘密を掴もうとするが、彼らがたどり着いた"事実"とは何か。そこがドラマのクライマックスになる。

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