引渡条例撤回でも混乱収まらぬ香港 中国はなぜ手出しできないのか
脅かされているものは何か
中国は香港の通貨、株式、債券市場を利用して外国資金を呼び込んでいる。また外国企業は、香港を中国本土に進出する足掛かりにしている。外国から中国への直接投資の大半は、今も香港経由だ。
工商銀行といった国有企業からインターネット関連の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)などの民間企業まで、ほとんどの大手中国企業は香港に上場し、国際的な事業展開を目指す傾向にある。
リフィニティブのデータによると、昨年の中国企業による新規株式公開(IPO)を通じた資金調達額は642億ドル(約6兆8000億円)と、世界全体のIPO総額のほぼ3分の1に相当する。ただ上海ないし深センの上場での調達額は197億ドルにとどまり、香港上場の350億ドルに及ばない。
香港と上海・深センの株式相互接続制度も、外国人が中国本土の株式に投資する主な手段となっている。
中国企業が昨年海外市場で行ったドル建て起債1659億ドルのうち、33%を香港の債券市場が占めたことが、リフィニティブのデータで分かる。
さらにナティクシスが集計した香港金融管理局(HKMA)のデータを見ると、中国の銀行が香港で保有する資産は昨年段階で1兆1000億ドルと、他のどの地域の銀行よりも多く、中国の国内総生産(GDP)のおよそ9%に相当する。
こうした巨大な金融チャネルを失えば、既に減速している中国経済は一層不安定化し、共産党が過去数十年に渡って実績として示してきたような繁栄を今後も中国にもたらし続けることができるのか、信頼が揺らぐ恐れが出てくる。
香港の港が依然として中国の輸出入のかなりの部分を取り扱っていることや、香港が中国にとって昨年は国・地域別で最大のサービス貿易相手(中国商務省によるとシェア20%超、第2位は米国の17%)だったことなどからも、両者の結び付きの強さがうかがえる。
人民元を国際的に利用される通貨としてドルに対抗する存在にしようという中国の長年の野望を実現する上でも、香港は極めて重要な存在になっている。
全て台無しになる可能性
中国政府は、香港の騒乱が中国の安全保障や主権を脅かすならば決して座視しないと表明している。複数の政府高官からは、香港で起こっていることは内政問題であるとして外国の口出しを非難する声も聞かれる。
ただ主要国の政治指導者は、中国側に自制を求めている。
一部の米上院議員は、1992年に成立させた米国・香港政策法を修正し、香港を中国本土と別の関税エリアとする扱いを変更する意向を示唆している。こうした扱いをしてきたのは、香港が中国政府から十分に独立的と判断してきたためで、もし中国が何らかの形で武力を行使すれば、米国が同法を修正する決定的な要因になりそうだ。
たとえ中国政府が武力行使といういわゆる「核オプション」を手控えたとしても、香港問題でより公然かつ直接的な介入の兆しが見えて、街頭でデモ隊と警官隊の衝突が続くなら、海外の投資家はシンガポールなど、税率が低く法体系への信頼度が高い別の金融センターに機会を求めようとしてもおかしくない。
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