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「自分は役立たず」デモに参加できない罪悪感に苦しむ香港人留学生

Hong Kong International Students in Minnesota Want To Protest

2019年9月4日(水)19時10分
ジェニー・フィンク

香港デモを支持するデモ(8月17日、ロンドン) Henry Nicholls-REUTERS

<アメリカにいる香港出身の留学生は、自らを「キーボード活動家」と自嘲する。遠く安全な場所からネットを通じて参加するだけ、という意味だ。だが傍観者であることのいらだちの一方には、香港とアメリカを天秤にかける自分もいる>

仲間の学生たちが命がけで反政府デモに参加しているときに、自分は傍観者として眺めることしかできない──アメリカのミネソタ州で大学に通う香港からの留学生たちは、そんな罪悪感と無力感にさいなまれている。

香港育ちのスタンリー・チョウ、ソフロニア・チュン、ヒュー・チャンの友人3人は、アメリカで勉強するためミネソタ大学に入学した。デモが始まった6月の初めには3人ともアメリカにいて、その規模の大きさが伝わるまで、事態の深刻さには気付かなかったとチュンは言う。

「香港で育った私たちは、かなり政治には無関心だと思う」と、チャンは言う。「自由と民主主義の恩恵を受けてきたし、それが当然のことだと思っていた」

<参考記事>「生きるか死ぬか」香港デモ参加者、背水の陣
<参考記事>香港人は「香港民族」、それでも共産党がこの都市国家を殺せない理由

中国大陸への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への抗議として始まったデモは、自由と民主主義を求め、警察の暴力への調査を訴える大きな民主化運動に発展した。過去数カ月の間に、デモ参加者と警察との対立は、時には暴力沙汰に発展し、1989年に中国で起きた天安門事件を連想させるものにもなった。

デモ参加者の一部は逮捕され、その他の参加者も今後、報復される危険に直面しているが、運動の勢いが衰える兆しはない。故郷から遠く離れた場所にいるチョウ、チュン、チャンにとって、傍観し続けるしかないのは辛い。

香港のデモ隊と警察はまた激しく衝突した(9月3日、旺角で)


一時帰国してデモに参加

「(香港にいれば)もっと多くのことができたのに、と感じる」と、チョウは言う。「ここアメリカにいて、見ているだけではなく、戦いの最前線に身を投じて、旗を掲げたり、催涙ガスを浴びたりすることができたかもしれないのに」

チョウは8月初旬に急遽、デモに参加するために香港に戻った。チャンはもともとビザ更新の必要があったので、夏に香港に帰った。

チャンは7月の間に、何度かデモに参加した。両親は心配し、チャン自身も危険を感じていたが、自分がしなければならないことだと感じた。チョウは自分がやったことは十分ではないし、今でも友人たちをはじめデモ参加者の力になれるように、もっと活動するべきだったと感じている。

「運動にそれほど大きな貢献はできなくても、自分には留まる義務があると感じた」と、チョウは言う。「香港というコミュニティの一員として、自分の責任を果たすために必要なことだった」

それは簡単なことではない。すでに帰りの航空券を購入済みで、次の学期も始まるため、チョウとチャンはアメリカに戻った。

今、自分たちは「キーボード活動家」だとチュンは言う。故郷で起こっていることについてソーシャルメディアに投稿することしかできず、無力感にさいなまれている。

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