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アジア情勢

アジアに、アメリカに頼れない「フィンランド化」の波が来る

Asia’s Coming Era of Unpredictability

2019年9月2日(月)19時00分
ロバート・カプラン(ユーラシア・グループ専務理事)

フランスで行われた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で日米首脳会談に赴くトランプと安倍晋三首相(8月25日) Carlos Barria‐REUTERS

<アメリカ一極支配によりアジアの安定が当たり前だった時代は去ろうとしている。これからは予見不可能なアジア、中国に従属するアジアの時代になるかもしれない。日本もそうした将来への準備が必要だ>

1942年、米海兵隊が太平洋の島を舞台に日本軍との終わりの見えない激しい戦闘を繰り広げていたころ。オランダ系アメリカ人の地政学者でエール大学の教授だったニコラス・スパイクマンは、アメリカと日本が戦後、中国(当時はアメリカの重要な同盟国だった)に対抗して同盟を組むことになると予言した。

日本はアメリカにとって忠実かつ有用な同盟国になるだろうとスパイクマンは主張した。日本が食糧や石油を輸入できるようにアメリカがシーレーン防衛にあたらなければならないものの、人口の多い日本とは強い通商関係で結ばれることになるというのだ。

一方で中国は、戦後は大陸における強力かつ危険な大国となるから、力の均衡を保つための牽制策が必要になるだろうとスパイクマンは述べた。スパイクマンはまた、アジアにおける日本が欧州におけるイギリスのような存在になると考えた。つまり海を挟んで大陸と対峙するアメリカの同盟国ということだ。

スパイクマンは1943年に癌でこの世を去ったため、この予言が現実のものとなったのをその目で見ることはなかった。実際、彼の予言はアジアという地域を定義するとともにこの地に安定をもたらし、70年以上にわたってアジアに平和と繁栄をもたらすビジョンとなった。

<参考記事>日韓、香港、米中......あなたも世界の動きと無縁ではない。トランプの嘘とも

「スパイクマン時代」の終わり

1972年のニクソン訪中を始め、ソ連を牽制するためにアメリカが中国に接近したこともある。それでも日米同盟は、アジアの安定の礎石であり続けた。両国のパートナーシップなくして、大成功を収めたニクソン政権の対中政策も存在し得なかっただろう。

スパイクマンの予言は当時としては非常に先見の明のあるものだったが、米中の貿易戦争が繰り広げられる(そして彼の名を知る人はほとんどいない)今日においても、その意義はまるで失われてはいないように見えるかも知れない。

だが実のところ、スパイクマンの唱えたアジア秩序は崩壊を始めている。この10年間にアジアが大きな変容を遂げたせいだ。変化は徐々に進み、いくつもの国々へと広がっていったため、新しい時代に突入しつつあることを理解している人はほとんどいない。新しい時代の背景にあるのは、国内における不安定要素も強硬さも増した中国と、ひびの入ったアメリカの同盟システム、そして過去数十年間ほどには支配的でなくなった米海軍だ。

香港での危機や日韓関係の悪化は、新たな時代の序章に過ぎない。アジアの安定はもはや当たり前ではなくなっている。

<参考記事>嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

まず第1に、中国はもはや私たちの知っていた中国ではない。かつて毎年2ケタの経済成長を遂げ、リスクを嫌う顔のないテクノクラートの一団(厳しい任期制限によってその行動は抑制されていた)によって支配されていた中国は、今や経済成長率はせいぜい6%で、1人の強硬な独裁者によって支配される国となっている。

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