AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?
NOT SO SIMPLE A STORY
監視カメラ向けAIを開発する商湯科技(センスタイム)の製品デモには、驚くほど詳細な情報が表示されている GILLES SABRIE-BLOOMBERG/GETTY IMAGES
<監視カメラ網の構築が始まったのは2005年だった――。現地取材から明かす監視大国の実情と、一般的なイメージとの乖離。本誌「顔認証の最前線」特集より>
今年7月、私は江蘇省蘇州市の平江路を歩いていた。運河沿いに走る小道だ。歴史地区に指定されており、「空に天国あらば、地に蘇州・杭州あり」とうたわれた美しい街の姿を残している。
その風情ある街並みの中で似つかわしくない物が目に入る。監視カメラだ。円筒形をしたもの、球状のものなど数種類あるが、白い金属で覆われた姿はひときわ異様さが目立つ。しかも数十メートルおきに設置されているのだから、嫌でも目に付く。
常に監視されていることに居心地の悪さは禁じ得なかったが、そうした思いを抱いているのはごった返す観光客の中でも私だけのようだ。道行く人々は誰もがまるでカメラの存在など目に入っていないかのようだった。
カメラの真下ではしゃぐ子供たち、愛を語り合うカップル、記念写真を撮影する家族連れ。カメラの多さよりも、それを全く気にも留めない人々の姿のほうが驚きと言っていいかもしれない。
これは蘇州だけの光景ではない。都市部に限れば中国全土に共通している。中国はいつから「監視カメラ大国」になったのか。それは社会に何をもたらしたのか。目的はどこにあり、人々はどのように感じているのか。
中国で国家による監視カメラ網の構築が始まったのは2005年だ。先行して一部都市に導入を指示する「科技強警モデル都市」、その経験を全土に広める「平安建設」、各自治体へ監視カメラ網構築を指示する「3111工程」といった政策が同年に打ち出された。
治安を目的としたこの監視カメラ網構築は後に「天網工程」と呼ばれるようになるが、外国メディアは映画『ターミネーター』で人類を滅亡の危機に追い込んだ人工知能(AI)「スカイネット」の英訳を付けている。
12年には警察監視カメラ映像のネットワーク化が始まった。監視カメラは強力な証拠能力を持つが、その映像が分散保管されていれば必要な情報を集めるのに時間がかかる。ネットワーク化すれば必要な映像をすぐ入手できるほか、リアルタイムでの監視も可能だ。
孫をあやしながら自宅で監視
さらに2010年代後半からはスマート化を推進。画像認識技術により映像に何が映っているかを検索できるようにするもので、例えば「青い服を着た中年男性」というキーワードで、膨大な映像から候補を選ぶことができる。
また、顔認証技術によるデータベースとの照合も行われ、指名手配犯がカメラに写ればアラームを鳴らすなど、個人の特定も可能だ。これにより従来は人の目に頼っていた画像チェックの自動化が可能になったというわけだ。