アメリカが逃れられない9.11のトラウマ
We Still Can’t Move Past 9/11 Politics
アメリカはまだ、「ポスト9.11政治」から抜け出せていないようだ。それでも、議論の前提は変わりつつある。
例えば、アルカイダやISISのようなイスラム過激派組織が欧米を標的にする9.11型テロの脅威は小さくなった。ニューアメリカ財団のまとめによれば、アメリカ本土では今年、イスラム過激派による死者を伴う攻撃は一度も起きていない(ヨーロッパでも1件のみ)。
しかもジョージタウン大学のダニエル・バイマン教授が指摘したように、アメリカ本土では9.11以降、イスラム過激派よりも白人至上主義者の攻撃による死者のほうが多い。民主党候補によるこれまでのテレビ討論会でテロが取り上げられたときも、アルカイダやISISより白人至上主義者への言及のほうが多かった。
アメリカ国民は今もテロを懸念しているが、以前ほどではなくなった。シカゴ国際問題評議会の調査によれば、国際テロを「重大な脅威」と考える国民は2002年には全体の91%だったが、2016年には75%、現在は69%だ。
さらにピュー・リサーチセンターによれば、国民が重要視している問題の中で、テロは経済、医療、教育に次いで4番目だった。2000年代前半から半ばまでは国民の約80%がテロを最重要事項の1つと考えていたが、今は67%に減っている。
過去20年ほどは、アメリカや他の先進諸国へのテロ攻撃が大きな不安を感じさせる頻度で起きていた。アフガニスタン、イラクやシリアでは、大勢の米兵が国際テロ組織と交戦していた。
9.11が日常になる?
今は違う。アメリカ本土への攻撃はほとんどなく、あったとしても以前に比べて政治への影響ははるかに小さい。それよりも、むしろアメリカ人によるテロや銃乱射事件のほうが、大きな脅威に感じられる。
ISISやアルカイダなどの活動は衰えておらず、死者も出している。だが攻撃の場は、アメリカよりも国外の紛争地帯だ。米兵は今も戦闘で命を落としているが、大きな政治的議論になる規模の人数ではない。
一方で、9.11直後に対テロ戦争を速やかに承認するために制定された「軍事力行使権限承認法」は今も生きている。この法律は、テロとのつながりが強く疑われる組織に対する軍事行動を正当化するために使われてきた。軍事行動といっても、特殊部隊やドローンなどによる小規模な作戦で、国民の強い反発を招くようなものではない。