最新記事

アメリカ政治

アメリカが逃れられない9.11のトラウマ

We Still Can’t Move Past 9/11 Politics

2019年9月19日(木)19時00分
ジョシュア・キーティング

magw190918_911_2.jpg

トランプはテロへの強硬姿勢を貫いて大統領選に勝利 JONATHAN ERNST-REUTERS

アメリカはまだ、「ポスト9.11政治」から抜け出せていないようだ。それでも、議論の前提は変わりつつある。

例えば、アルカイダやISISのようなイスラム過激派組織が欧米を標的にする9.11型テロの脅威は小さくなった。ニューアメリカ財団のまとめによれば、アメリカ本土では今年、イスラム過激派による死者を伴う攻撃は一度も起きていない(ヨーロッパでも1件のみ)。

しかもジョージタウン大学のダニエル・バイマン教授が指摘したように、アメリカ本土では9.11以降、イスラム過激派よりも白人至上主義者の攻撃による死者のほうが多い。民主党候補によるこれまでのテレビ討論会でテロが取り上げられたときも、アルカイダやISISより白人至上主義者への言及のほうが多かった。

アメリカ国民は今もテロを懸念しているが、以前ほどではなくなった。シカゴ国際問題評議会の調査によれば、国際テロを「重大な脅威」と考える国民は2002年には全体の91%だったが、2016年には75%、現在は69%だ。

さらにピュー・リサーチセンターによれば、国民が重要視している問題の中で、テロは経済、医療、教育に次いで4番目だった。2000年代前半から半ばまでは国民の約80%がテロを最重要事項の1つと考えていたが、今は67%に減っている。

過去20年ほどは、アメリカや他の先進諸国へのテロ攻撃が大きな不安を感じさせる頻度で起きていた。アフガニスタン、イラクやシリアでは、大勢の米兵が国際テロ組織と交戦していた。

9.11が日常になる?

今は違う。アメリカ本土への攻撃はほとんどなく、あったとしても以前に比べて政治への影響ははるかに小さい。それよりも、むしろアメリカ人によるテロや銃乱射事件のほうが、大きな脅威に感じられる。

ISISやアルカイダなどの活動は衰えておらず、死者も出している。だが攻撃の場は、アメリカよりも国外の紛争地帯だ。米兵は今も戦闘で命を落としているが、大きな政治的議論になる規模の人数ではない。

一方で、9.11直後に対テロ戦争を速やかに承認するために制定された「軍事力行使権限承認法」は今も生きている。この法律は、テロとのつながりが強く疑われる組織に対する軍事行動を正当化するために使われてきた。軍事行動といっても、特殊部隊やドローンなどによる小規模な作戦で、国民の強い反発を招くようなものではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、米政府支出1兆ドル削減に自信 サービスに

ワールド

イラン、核合意巡るトランプ氏の書簡に回答 間接協議

ビジネス

米自動車関税、企業は価格設定で難しい選択に直面=地

ビジネス

米自動車株値下がりでテスラ「逆行高」、輸入関税影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 4
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」に…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中