「自治権はく奪」でインド化強行のモディ政権と戦うカシミールの若者
8月20日、インドが実効支配するカシミール地方最大の都市スリナガルでは、人口が密集するスーラ地区の入り口を、若い男たちが一週間以上、24時間体制で警戒している。写真は12日、スリナガルでインド政府への抗議活動に参加する住人(2019年 ロイター/Danish Siddiqui)
インドが実効支配するカシミール地方最大の都市スリナガルでは、人口が密集するスーラ地区の入り口を、若い男たちが一週間以上、24時間体制で警戒している。
12カ所ほどある地区への入り口には、レンガや金属の波板、材木や丸太を使ったバリケードが築かれている。石を手に「武装」した若者たちが、こうした障害物の後ろに集まる。インドの治安部隊や武装警察の侵入を阻むためだ。
「われわれの声はどこにも届かない。内側から爆発しそうだ」
イジャズと名乗る25歳の青年は、拘束を恐れながらもこう話した。
「もし世界もわれわれの言うことに耳を貸さなかったら、どうすればいいんだ。銃を手にするか」
インド政府は5日、国内で唯一イスラム教徒が過半を占めるジャム・カシミール州の自治権はく奪を決めた。そして、人口約1万5000人のスーラ地区は、これに対する抵抗活動の中心地となりつつある。
そこはインド治安部隊にとって事実上の「立ち入り不能」地区と化しており、モディ首相のヒンズー至上主義政権による対カシミール強硬策の「本気度」をはかるバロメーター的存在になっている。
インド政府は自治権はく奪について、カシミール地方を完全にインドに同化させ、汚職や縁故主義を撲滅し、発展を加速するために必要だと説明。モディ首相は、発展が平和の存続とテロ掃討の鍵だとしている。
だがスーラでは、モディ氏の動きを支持する人はほとんどいない。ロイターはこの1週間で住民数十人に取材したが、首相のことを「独裁者」と批判する声が多く聞かれた。
自治権を停止する憲法改正により、住民以外でもジャム・カシミール州で不動産を購入したり、この地方を統治する政府で働けるようになる。カシミールに住むイスラム教徒の中には、ヒマラヤの麓にある豊かな土地が数で勝るヒンズー教徒に乗っ取られ、カシミールのアイデンティティや文化、宗教が抑圧されると懸念する人もいる。
「ここで『管理ライン(LOC)』を防衛していような気持ちだ」と、イジャズさんは言う。LOCとは、カシミール地方をインド実効支配地域とパキスタンの実効支配地域に分断する事実上の国境だ。カシミール地方は、核保有国であるインドとパキスタンの長年の「発火点」であり、両国は領有権を巡って1947年以降2度戦争している。
スーラ地区の住民によると、先週以降、武装警察との衝突で数十人が負傷したという。拘束された人数は不明だ。
州政府やインド内務省は、取材の求めに応じなかった。