最新記事

ミステリー

ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さらに深まる

2019年8月23日(金)19時15分
松岡由希子

何百体もの人骨が見つかっているループクンド湖 Atish Waghwase

<標高5000メートルを超えるヒマラヤ山脈の湖岸で見つかった何百体もの人骨。38体の人骨について全ゲノムシーケンス解析を行ったが、謎はさらに深まることになった......>

インド北部ウッタラーカンド州に属し、標高5000メートルを超えるヒマラヤ山脈の中にあるループクンド湖は、何百体もの古代の人骨が湖岸から発見されたことから、「スケルトンレイク(骨の湖)」や「ミステリーレイク(謎の湖)」と呼ばれている。

これまで、これらの人骨は、同じ自然災害で被害に遭った人々であろうと考えられてきたが、これらの人々がいったい誰で、なぜループクンド湖を訪れ、どのように亡くなったのかについては、まだ完全に解明されていない。

matuoka0823b.jpg

「スケルトンレイク」と呼ばれるループクンド湖 Nature Communication

skellington-bones.jpg

多くの人骨が見つかっている Himadri Sinha Roy

インド系、ギリシャ系、東南アジア系......

インドのバーバル・サーニー古植物研究所(BSIP)、米ハーバード大学医学大学院、独マックス・プランク研究所などの研究者28名からなる国際研究チームは、ループクンド湖から採集した38体の人骨について全ゲノムシーケンス解析を行い、2019年8月20日、その研究成果をオープンアクセス誌「ネイチャーコミュニケーションズ」で発表した。これによると、遺伝的に明らかに異なる3つのグループが存在し、死亡した時期も1000年離れた2つの時期に分かれていることが明らかとなった。

bones-onna-rock.jpg

Pramod Joglekarv

研究チームは、72の人骨試料のミトコンドリアDNAを解析し、複数のグループが存在することに気づいた。現代のインド人に特有のミトコンドリアDNAハプログループ(単倍群)を有する人々が多く確認された一方、西ユーラシア人に特有のハプログループに属する人々も見つかった。

さらに研究チームは、38体の人骨について全ゲノムシーケンス解析を実施。現代のインド人につながる祖先を持つ23名、東地中海の現在のギリシアやクレタ島の人々とつながりの深い祖先を持つ14名、現在の東南アジア人につながる祖先を持つ1名といったように、少なくとも3つのグループに分かれることがわかった。

また、安定同位体による食性分析でも、複数のグループが存在することが示されている。インド人につながるグループは、米・小麦・大豆などのC3植物やトウモロコシ・サトウキビなどのC4植物に由来する食料を中心に、多様な食事を摂っていた一方、東地中海に関連するグループはキビの少ない食事を食べていたとみられる。

世界中から人々が訪れる場所だった?

放射性炭素年代測定により、これらの人骨は、同時期に堆積したものでないことも明らかとなった。インド人につながるグループは7世紀から10世紀にかけて複数の事象により死亡し、その約1000年後にあたる17世紀から20世紀にかけて他の2つのグループに属する人々が亡くなっている。

研究論文の筆頭著者でハーバード大学のエーディン・ハーニー研究員は「東地中海につながる祖先がいたことから、ループクンド湖は、世界中から観光客が訪れる場所だったのではないか」と考察している。

これらの研究成果により、ループクンド湖は、これまで考えられてきたよりも複雑な歴史を持っていることがわかった。東地中海につながる祖先がどのようにしてこの地にたどり着き、なぜ亡くなったのかなど、謎はさらに深まるばかりだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

イーサ現物ETF上場承認に期待、SECが取引所に申

ワールド

ロシア軍が戦術核使用想定の演習開始、西側諸国をけん

ビジネス

アングル:米証券決済、「T+1」移行でMSCI入れ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中