「こっちの水は甘いぞ!」――深センモデル地区再指定により香港懐柔
香港青年の言葉にある「このような優遇措置」とは、「意見」の中に書いてある「深センで働き生活をする香港マカオの居住民たちに深センの市民権を与える」という一文を指している。
これではまるで、「香港を捨てよ」と呼び掛けているようなものだ。
こっちの水は「アーマイ」ぞ!――香港を骨抜きにして「一国二制度」を完遂
それ以外にも「意見」では
(1)深センに国家科学センターを設立して、「5G、AI、IT、バイオ」などのハイテク研究室の設立を支援する。
(2)深センにおける国有企業を改革し、自由貿易区域を設置する。
(3)憲法や法律および行政法規などを順守するという前提のもとに、イノベーション改革実践のニーズに応じて、深セン独自の法律、行政法規あるいは地方性法規の制定の自由を一定程度認める。
というのがある。明示的に書かれてはいないが、おそらく深センにおいては土地所有の申請に関しても簡素化され、さらに「東莞市」を最終的に深セン市に組み込む可能性さえ考えられる。
実は香港の発展を制限している重要な原因の一つに土地が狭いという問題がある。香港市民は日常生活においても道が狭くて交通渋滞に悩まされている。香港と深センが一体化され土地問題が解消されるというのなら、土地の狭さに悩まされている香港市民の心は動くにちがいない。結果、香港市民が深センに移住して市民権を得て恩恵を受ける道を選ぶかもしれないと、北京は計算しているのである。
「こっちの水はアーマイぞ!」と香港市民を誘い込んでいるようなものだ。こうして次々に深セン市民となってしまえば、香港は骨抜きになり、「一国二制度」は北京の思うままになるという計算だ。
この「意見」は、今後粤港澳大湾区の中心が深センとなり、今までのように香港に資源を注ぎ込むことがなくなるという政策でもある。
その線で考えると、深センが直轄市に昇格する可能性も否定できない。
習近平は同時に、米中攻防における対抗馬を打ち出してきたということもできる(これに関しては別途考察する)。
以上が「意見」の持っている真の意味である。
(なお本稿は中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。)
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。