最新記事

軍事

アメリカはインド太平洋での軍事的優位を中国に奪われた 豪シンクタンク

China May Win Fight 'Before America Can Respond' in Pacific, Report Says

2019年8月20日(火)16時00分
トム・オコナー

報告書は米軍に日豪との協力強化を提言(2018年11月15日、フィリピン海で行われた米軍と自衛隊による日米共同統合演習「キーン・ソード」) U.S. Navy/REUTERS

<アメリカは依然、世界一の軍事大国だが、世界中に戦線を広げ過ぎて、もしアジアで中国が素早い軍事行動に出れば、米軍には阻止できないかもしれない>

インド太平洋地域におけるアメリカの軍事的優位性は、国内の党派対立や世界各地での戦争などが原因で揺らぎつつあり、軍事衝突となれば急成長を遂げる中国が圧倒するかもしれない──。

そう結論付けたのは、豪シドニー大学アメリカ研究所が8月19日に発表した報告書。「危機回避:アメリカの戦略、軍事支出とインド太平洋における集団的自衛」と題された104ページの報告書は、「アメリカはインド太平洋地域における軍事的優位性を失いつつあり、望ましい勢力バランスを維持できるかどうかますます不確かになりつつある」と指摘。地域の「軍事大国」として注目しているのが、ドナルド・トランプ米大統領が2018年の国家防衛戦略で最大の脅威と位置づけた中国だ。

「中国は、インド太平洋の米軍拠点の一部をものの数時間で圧倒してしまうかもしれない」(豪シンクタンク)


webw190820-china.jpg

南シナ海で演習中の中国海軍の精密誘導ミサイルフリゲート艦(2019年8月)
 LIANG ZHANGMING/CAI SHENGQIU/CHINESE PEOPLE'S LIBERATION ARMY


報告書によれば、アメリカは今でも世界一の軍事大国と思われているものの「中東で続く複数の戦争、緊縮財政、先端軍事技術への投資不足や自由世界秩序の構築を目指す大規模な対外関与などの複合的な影響により、中国と張り合うには準備不足の状態にある」という。

<参考記事>太平洋諸国で存在感を強める中国 米国は「肉食獣の経済力」を懸念

着実に軍事力を増強してきた中国

一方中国は、「大規模な部隊を作戦地域に運んで作戦を行い、全領域で軍事的優位性を確立する、というアメリカの戦争手法を研究し、精密誘導ミサイルをはじめとする対介入システムを大量に配備している」。「米軍がこれらの兵器の射程内に近づくのを難しくすることで、中国は限られた戦力でも先制攻撃を行い、米軍が到着する前に台湾や日本や南シナ海の島々を奪って支配を既成事実化できる」

米軍と自衛隊による日米共同統合演習「キーン・ソード」


21世紀に入ってアメリカが(特に中東で)終わりの見えない反乱鎮圧に終始する間に、中国は空軍と海軍の近代化を実現した。そしてインド太平洋の資源豊富な戦略海域での権益を守るために、地上発射型のミサイルを大幅に増やした。

<参考記事>中国が南シナ海で新たに「人工島の街」建設を計画

中国の海洋進出をめぐっては、既に緊張が高まっている。アメリカは中国が南シナ海の広い海域や台湾について主張している領有権を認めておらず、台湾に新型戦闘機「F16V」66機(80億ドル相当)を売却することを決定。中国政府はこれに激怒している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中