最新記事

東南アジア

インドネシア首都移転を大統領が正式表明 反響が薄い理由とは

2019年8月19日(月)13時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

独立記念日を前にした恒例の議会での年次教書演説で、首都移転を初めて正式に表明したインドネシアのジョコ・ウィドド大統領。Willy Kurniawan - REUTERS

<首都近郊の人口が3000万人を超え、東京と同規模で一極集中が進むインドネシアの首都ジャカルタ。この首都を移転する構想が発表されたが......>

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が8月16日に独立記念日(17日)を前にした恒例の議会での年次教書演説で、現在の首都ジャカルタをカリマンタン島に移転する方針を初めて正式に表明し、議員や国民の承認と協力を呼びかけた。

本来なら大ニュースになる内容だが、すでに政府が5月にカリマンタン島への首都移転方針を明らかにしていたことやその実現性に疑問符が投げかけられていること、さらに残された任期5年のジョコ・ウィドド大統領の政治的思惑などから、地元でのニュースの扱いも地味で、国民の反応も極めて鈍いものだった。

どうしてそうなのかを分析してみる。インドネシアの首都ジャカルタは今や人口約1000万人、周辺の首都圏には3000万人が居住し、世界第4位の総人口2億6000万人の60%がジャカルタのあるジャワ島に集中している。ジャカルタは名実ともに政治・経済・社会・文化の中心地として1945年の独立以来、インドネシア発展の中核として成長してきた。

しかし人口集中による弊害は、ジャカルタ首都圏の深刻な交通渋滞を引き起こし、経済活動停滞の一因と指摘されるまでになっている。さらに地下水の汲みすぎによる地盤沈下とそれに伴う洪水の頻発、局地的・短時間ではあるが頻繁に発生する停電なども首都機能に影響を与えている。8月4日には都市機能をマヒさせる大停電も起き、ジョコ・ウィドド大統領が電力供給公社幹部の責任を追及する事態も起きた。

その一方でジャカルタ郊外の「スカルノ・ハッタ国際空港」は第3ターミナルが完成するなど、今もなお整備拡張中であり、中心部では4月に日本の技術協力でインドネシア初の地下鉄の都市交通鉄道(MRT)が開通。近郊都市を結ぶ軽量高架鉄道(LRT)も10月から新たな路線開通を目指して工事が最終段階にある。空港と中心部を結ぶ空港鉄道も整備され、中国企業が受注したジャカルタ=バンドン間の高速鉄道も2021年の完工を目指すなど遅れていた鉄道網の整備が着々と進んでいる。

また、東西南北に走る目抜き通りにはバス専用レーンを設置して優先走行を可能としたり、日にちの数字に合わせて中心部に乗り入れ可能な車両のナンバーの数字による制限(奇数日にはナンバープレートの末尾一桁が奇数の車両のみ日中走行可能)を実施したりするなど首都としてのインフラ整備、渋滞緩和策は現政権の下で試行錯誤を繰り返しながらも着実に進展をみせている。

このように現在首都で進む開発、インフラ整備を「反故」にして、カリマンタンに新都市建設を進めようというジョコ・ウィドド政権の都市移転構想には経済界から大きな疑問が呈されている。

もっとも「経済機能はジャカルタに残して政治機能だけを移転する構想のようだ」ともささやかれているが、首都移転先の地名を含めて具体的な計画が何も公表されていないことも国民の関心の低さの一因とされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中