香港デモの行方は天安門事件より不吉、ウイグル化が懸念され始めた
Weaponizing Nationalism
国家主席に加えて、中国共産党中央委員会総書記と中央軍事委員会主席の座にある習の権力は相当なものであり、権力を行使する気で満々だ。「中華民族の偉大な復興」というスローガンの根底にある習の信条とは、欧米による世界秩序に反発する急進的な修正主義と国内外での拡張主義。その野望の実現には周縁地域の平定が不可欠であり、その実現のためなら、ほとんどどんな代償も惜しまない。
国章が汚された一件を国営メディアで大きく取り上げることにより、中国政府は意図的に本土の市民のナショナリスト的情熱をかき立て、国家の仮想敵に対して行動に出る許可を与えている。この手の政治戦・心理戦は通常の軍事弾圧をも上回る悲劇につながる可能性がある。香港市民と本土市民の関係に、今後数世代にわたる悪影響を及ぼしかねないからだ。
限定的衝突が大騒乱に?
習の「劇薬」が早々にもたらした苦い現実の1つが、オーストラリアの駐ブリスベン中国総領事の発言だ。同市にあるクイーンズランド大学で香港支持の平和的デモが行われた際、参加者ともみ合った中国大陸部出身の留学生らに対して、総領事は称賛を口にした。
エスノナショナリズム的感情は既に、中国西部の周縁地域ですさまじい規模に拡大している。09年、広東省の工場で起きた漢民族とウイグル人の衝突は新疆ウイグル自治区の区都ウルムチに飛び火し、死者197人(当局発表)に上るウイグル騒乱に発展した。この事件の後、中国共産党は強制的な民族・文化・宗教同化政策の開始を決定。チベット人とウイグル人がその犠牲になっている。
中国共産党の人道に対する罪は今や国際的に有名だ。新疆ウイグル自治区ではウイグル人などの少数民族150万人以上が、「職業訓練センター」と称される強制収容所に拘束されている。
自国のソフトパワーや国際的評判を犠牲にすることもいとわずに強制収容を実行する中国共産党の姿勢を考えれば、香港市民のアイデンティティーを破壊すべく、将来的に同様の強硬手段に出ることも想定不可能ではない。とはいえ香港の現状と09年のウイグル騒乱には大きな違いがある。
東アジアの金融ハブとしての国際的重要度のおかげで、香港の市民が国際社会で持つ存在感はウイグル人に比べてはるかに大きく、外国で学んだり働いたりしている香港出身の若者も数多い。今回の対立は地域の枠を超えて、世界各地へ遠からず拡大するはずだ。
この予測が正しければ、香港や中国大陸部、あるいはその他の場所で起こる限定的な民族間のいさかいも、ウイグル騒乱と同様の激烈な暴力を引き起こしかねないということになる。これこそ、誰もが懸念すべきシナリオだ。
<2019年8月13&20日号掲載>
【参考記事】香港は最後の砦――「世界二制度」への危機
【参考記事】ウイグル人活動家の母親を「人質」に取る、中国の卑劣な懐柔作戦
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