住宅街でもデモ、白シャツ集団が警察と談笑、香港最後の正念場へ
Hong Kong’s Endgame
元朗駅で襲撃事件を起こした後、たむろする白シャツ集団(7月22日) TYRONE SIU-REUTERS
<1本の法案に反対するデモ活動が香港政府そのものに対する抗議に拡大。エンドゲーム(終盤)は新たな局面に移った>
近代的な地下鉄駅の改札を、続々と突破していく白いTシャツ姿の男たち。手には傘ほどの長さの棒を持ち、目に付いた人たちに片っ端から襲い掛かる。コンコースに響く怒号と悲鳴。さらに男たちはホームに降り、到着した電車にも乗り込んで人々をメッタ打ちに──。
香港に逃げ込んだ犯罪容疑者の身柄を中国に引き渡すことを定めた「逃亡犯条例改正案」が、香港市民の猛烈な反発を招き、大規模なデモにつながったのは6月のこと。その結果、香港特別行政区の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、改正案の審議停止を発表し、事態は収束に向かうかに思われた。
だが、市民の抗議行動は終わらなかった。それどころか、この数週間で運動は一段と複雑さを増している。理由の1つは、林鄭が改正案は「死んだ」と言いつつ、完全な廃案にはしていないこと。つまり、まだ復活させる可能性があることだ。
もう1つの理由は、6月のデモ鎮圧に当たり、香港警察が平和的なデモ隊に向かって、ゴム弾や催涙弾を発射したり、丸腰の市民を数人の警官が取り囲み警棒でたたいたりするなど、行き過ぎた暴力を使ったことに対して不満が噴き出したことだ。
しかも警察の暴力は、エスカレートする一方に見える。7月14日には、香港で最大級のベッドタウンである沙田でデモ行進が行われた後、重武装した警察がショッピングモールに突入。デモに参加した人たちと衝突して流血沙汰になった。
7月21日夜に地下鉄・元朗駅で起きた白シャツ集団による襲撃事件は、こうした混乱に新たに複雑な側面を加えた。襲撃犯は香港の犯罪ネットワーク「三合会」のメンバーとされ、この日、別の場所でデモに参加した人たちが帰ってきたところをターゲットにしたようだ。
警察が駆け付けたのは、白シャツ集団が立ち去った後のこと。しかも事件後、香港警察高官が襲撃犯の1人らしき人物と談笑し、「何も心配することはない」と話している映像や、香港立法会(議会)の親中派議員・何君尭(ユニウス・ホー ※)が、白シャツ集団と握手をしていたという目撃情報が広まった。
その背景には、親中派政治家と警察の不審なつながりがある。林鄭は、6月のデモ鎮圧方法について独立調査委員会の設置を求める声に対して、「警察を裏切ることは決してない」と宣言。さらに、いつまでたっても収束しないデモと支持率の急落、そして自らの行政手腕を疑う声に焦った彼女は、警察にすがって香港政府の権威を立て直そうとしたらしい。
※何君尭の英語名を誤って記載していたので訂正しました(2019年7月29日19:30)。