最新記事

サイバー戦争

新時代サイバー戦争は暴走する

A New Age of Cyberwar

2019年7月3日(水)18時10分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

この記事の筆者の1人であるデービッド・サンガーは、12年に「スタックスネット」に関するスクープを報じた記者でもある。スタックスネットは、アメリカとイスラエルがイランの核施設に感染させたコンピューターウイルスで、ウランの遠心分離機数千基を破壊して、イランの核開発計画を少なくとも3年遅らせたと考えられている。

このスクープは、実際にスタックスネットが使われた2年後に報じられたが、今回のロシアの電力網に対するサイバー攻撃は、現在も進行中だ。トランプはこの記事に対して、「事実上の反逆行為だ」とツイートして、怒りをあらわにした。

だが、米国家安全保障会議(NSC)関係者はNYTの取材に対して、ロシアの電力網を攻撃していることが報じられても、「国家安全保障上の懸念は一切ない」と語ったという。ということは、米政府高官らはむしろ、米サイバー軍の活動が公表されることを望んだと考えることができる。「その気になれば、アメリカは敵のインフラに打撃を与えることができる」という警告を送っているのだ。

見えない攻撃の「歯止め」

ビル・クリントン大統領時代にホワイトハウスのサイバーセキュリティー政策を担当したリチャード・クラークは、「トランプ政権は、冷戦時代の核抑止論である相互確証破壊に似た状況をつくり出そうとしているのではないか」と語る。つまり、「対立する2カ国のどちらかが核(サイバー兵器)を使えば、相手も核(サイバー兵器)で報復し、結果的に双方が確実に破壊される」状況をつくることで、先制攻撃を防ごうというのだ。

だが、「サイバー戦争は多くの点で核戦争とは異なる」と、クラークは指摘する。第1に、専門家が「危機の不安」と呼ぶ問題がある。すなわち簡単に火ぶたが切られるサイバー戦争では、当事国は攻撃を控えるよりも、不安に駆られて先制攻撃に走る可能性が高いというのだ。

サイバー攻撃は、「犯人」が分かりにくいという問題もある。犯人が別人に成り済ます場合もある。このため誤った相手に報復攻撃を仕掛けて、意図せぬ戦争を引き起こす恐れがある。

米サイバー軍は09年の設置以来、規模も範囲もミッションも大きく拡大してきた。そして昨年の大統領覚書以来、独自の判断を下す裁量も拡大した。

そのサイバー軍司令官は、サイバー攻撃の技術を開発してきた米国家安全保障局(NSA)の長官を務める大将が兼務することになっている。現在その任務に当たっているのは、ポール・ナカソネ陸軍大将だ。

とはいえ、サイバー戦争の戦略は、他の「戦場」に比べてまだ原始的な段階にある。米サイバー軍の兵士たちは、コンピューターウイルスには精通しているかもしれないが、戦略や歴史の知識はさほど豊富ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ポルシェ、関税で値上げも コスト削減へ

ビジネス

車載電池ノースボルト、スウェーデンでも破産申請 欧

ワールド

トランプ氏の書簡、近くイランに到着=外相

ビジネス

英、決済規制当局を廃止 金融監督機構改革で企業の負
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中