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NBAレジェンドが、現代のヒーロー「キング」レブロンを語り尽くす

A HERO FOR OUR TIME

2019年7月19日(金)15時54分
カリーム・アブドゥル・ジャバー(元NBA選手)

レガシーなど気にするな

2人の間に敵対感情が生まれた一因は、バークレーがレブロンを「NBA史上トップ5選手」に入れなかったことらしい。だがアスリートが競技に対する愛情やファンからの愛情、あるいはお金のためにプレーするのは理解できるが、「レガシー」にこだわるのは短絡的ではないだろうか。

私も現役時代に数多くの記録を樹立したが、記録のためにプレーしたことは一度もない。チームの一員として、社会活動家として、あるいは地域社会の一員としてのレガシーは残したいが、アスリートとしてのレガシーを残そうと考えたことはない。既に社会的に十分な実績があるレブロンが、あえて選手としてのレガシーにこだわるのは狭量に思える。

昨年夏、レブロンは故郷オハイオ州アクロン市と共同で、恵まれない子供たちのための公立学校を設立した。ここは勉強を教えるだけでなく、生徒の家族が生活を向上させるための支援もする。地域社会へのこうした尽力は、豪快なダンクシュートよりもずっとヒーローにふさわしい。

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レブロンが地元に設立した学校 JASON MILLER/GETTY IMAGES

最後に、メディアに蔓延するGOAT(Greatest of All Time、史上最高)という病、つまり「誰が史上最高の選手なのか」という話題に触れておきたい。

今年1月、レブロンはESPNのインタビューで、自分こそがGOATだと主張した。16年のNBAファイナルで、1勝3敗の劣勢からの逆転劇によってキャバリアーズに数十年ぶりの優勝をもたらした実績を引き合いに出し、「あの逆転優勝が僕を史上最高の選手にした」と語ったのだ。

しかし誰がGOATかという質問は「空を飛ぶのと透明人間になるのと、どちらの超能力がすごいか」と問うのに等しい。彼がそんなむなしいゲームにとらわれているのは残念だ。

私は週に何度かこの手の質問を受けるが、答えはいつも同じだ。ここ何年かでゲームがあまりに大きく変わっており、明確な評価の基準はないと。

だから申し訳ないがレブロン、君はGOATではない。そんな称号は神話上の怪物にすぎない。GOATが誰かという質問は、ユニコーンの角はどれくらい大きいかという質問と同じくらい無意味だ。

それでもレブロン、君が今の時代のヒーローであることは間違いない。その地位は君が自力で獲得したものだ。君のようなヒーローがいることを、私たちは誇りに思う。

(筆者はNBAで20年にわたって活躍し、MVPに6度も輝いた伝説の選手。今も生涯獲得ポイント1位の記録を保持している。著書多数)

<本誌2019年3月5日号掲載>

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