IMF最後の切り札はイケメンすぎるインド中銀元総裁。華麗なる転身なるか
15年からは物価が落ち着いたことから、一転して利下げを繰り出すようになる。普通であれば、よほどの緊急事態でもない限り金利の上げ下げは毎月の金融政策会合で発表される。それに対して総裁時代のラジャン氏は何の前触れもなく緊急会合を開き、利下げを発表することがたびたびあった。利下げは0.25ポイントであることがほとんどだったが、「不意打ち」による心理的なインパクトを与えることで、下げ幅以上の効果を狙っていると現地では噂された。突然の発表になると何の準備もない状態で記事を書く羽目になり、なかなか記者泣かせな手法ではあった。ただ、「経済学は人間学」という専門家もいるように、経済とは人間の心理と切り離せないものだ。
就任直後の最も注目が集まるタイミングで物価抑制への決意を見せつけたことや、利下げで金融を緩和する際には「サプライズ」とセットにして大きなインパクトを与えるなど、世界的なエリートでありながら理詰めで攻めるのではなく、市場や関係者の心理面も巧みに突く手法には舌を巻く思いだった。16年はじめにはインドのインフレ率は4~5%ほどに落ち着く。原油安が進行したという幸運もあったが、ラジャン総裁の手腕がインフレ抑制に大きな役割を果たしたという意見は多い。
英中銀の総裁候補にも
国民からの人気が高く「ロックスター」とも呼ばれたラジャン総裁だが、1期目を終えた16年であっさり退任が決まってしまう。経済成長を重視するモディ政権と、金融緩和に消極的なラジャン総裁の意見が対立し、再任が見送られたという見方が一般的だ。ちなみに、後任のウルジット・パテル総裁も政権とそりが合わず、任期途中の18年12月に退任の憂き目に遭った。
数年の雌伏の期間を経てラジャン氏が表舞台に戻る日は来るのか。就任が噂されているのは、IMFの専務理事だけではない。英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)の総裁候補としても名が挙がっている。BOEは現職のマーク・カーニー総裁がカナダ人で、外国人として初めて総裁に就任している。ラジャン氏にとっても国籍が問題になることはない。カーニー総裁は20年1月に退任が確実視されており、ラジャン氏と共にIMF専務理事の候補でもある。世界経済の減速が予測されていることに加えて、英国はEU離脱という難題も抱える。難しい局面だからこそ、英国政府は国籍よりも能力を優先する思惑が強いのかもしれない。
ラジャン氏が就くのは、国際金融の「顔」なのか、難局を迎える英国の「通貨の番人」役なのか。どちらにしても、実績と実力、そして「スター性」も申し分ない候補だ。
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