EUトップ人事の舞台裏で欧州リーダーの実力を見せたマクロン
2日の11時から再開された首脳会議で、CDU所属の現職国防大臣で一時はメルケル氏の後継者といわれたフォンデアライエン氏案が急上昇し、合意に至った。
タバール編集長は、この一連の動きでマクロン大統領は2つの目的を達したという。すなわち2人の女性を政治と経済の2つの柱のトップにすえて革新をアピールしたこと。ついで、独仏関係の修復を証明したことである。また、7月3日の「レゼコー」紙はフランスは欧州中央銀行の総裁職を獲得し、「柔軟なマネー操作を維持するために通貨機構をフランス人の手に握ることができた」という。
マクロン大統領は改革を前面にだし、左右の既成政党をぶち壊した。欧州議会でもそれを行おうとしたが、成功しなかった、とタバール編集長はいう.
ただ、ドイツ政界の混乱を生むことはできた。
ドイツで大連立を組んでいるにもかかわらず相談もなしにティマーマンス氏の案が葬られたことで、社民党は相当に怒っている。CDUもウエーバー氏を見捨てたことに不満を持っておりメルケル首相の求心力も衰えた。
厳しい指摘はブーメラン効果
マクロン大統領は、あえて表舞台に立つことで、独仏がEUを引っ張るという筋書きはかわらないとしつつ、限界の見えてきたメルケル首相にかわろうした。だが、まだまだ座長をつとめるには力不足である。ティマーマン氏はマクロン大統領の意中の人だったが、ポーランドなど中東欧諸国を納得させることはできなかった。
マクロン大統領がウエーバー氏に言った経験不足と言うことは、議員の経験もなく1回大臣になっただけで大統領になったマクロン氏自身にも言える。またフランス国内での不人気の原因になっている議会軽視、エリート主義、謙虚さの欠如もある。
欧州連合が動いていることはまちがいない。EUに加盟して15年、中東欧諸国はドイツの影響から脱却して力をつけてきている。崩壊はしないが、さまざまな変化が起きていくだろう。そこで、マクロン氏はめだちたがりのトリックスターに終わるのか、主役になれるのか。
[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。
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