EUトップ人事の舞台裏で欧州リーダーの実力を見せたマクロン
「筆頭候補制」はドイツの連邦政府で行われている各党の筆頭候補が首相候補になるという方法で、日本の首班指名でも通常はこの慣例である。ただし、ドイツや日本の国内では、総選挙のトップは党の最有力者がなるが、欧州選挙の場合、かならずしもそのような人物がなるとは限らない。第一、欧州選挙は国ごとにおこなわれていて、各国民は投票する政党が所属する欧州政党の代表が誰なのかもしらない。
7月3日におこなわれたのは指名だけで、欧州委員長ほかの主要ポストは、今月中に行われる欧州議会の信任を経て正式に決定される。
欧州議会ではずっと保守系のEPPと社民系のS&Dで過半数を取っており、その両者が賛成すれば通ったが、今度の選挙で議席を減らし、第三勢力の協力が必要となった。その第三勢力として台頭したのが、マクロン大統領の与党共和前進の入る欧州自由民主同盟(ALDE&R)であった。マクロン大統領が難癖つけたのにはこのような事情もある。
納得できない中東欧諸国
6月21日に欧州首脳会議が開かれたが、合意には至らなかった。
そのとき、メルケル首相は、ウエーバー氏を推していたのだが、G20で大阪に滞在中、急に、S&Dのフランス・ティマーマンス氏を委員長に、ウェーバー氏を欧州議会議長に推薦するといいだした。あくまでも筆頭候補制の原則を守ってEPPのトップでだめならば、第2党のトップを、という発想だ。またドイツ国内でCDUと社民党とは大連立を組んでいる。
ティマーマンス氏は今回の欧州選挙で大勝したオランダ労働党の代表で、欧州委員会筆頭副委員長。和の政治ができる人とされている。マクロン大統領も、大阪に来ていたトゥスク大統領(欧州理事会議長)、スペイン、オランダの首相も賛成した。
こうして、帰国後すぐ30日からの首脳会議に臨んだわけだが、こんどは、EPP内部から反対がでた。ハンガリーとポーランドは法の支配ができていないとか自由が抑圧されているとかEUから制裁警告をだされているが、ティマーマンス氏はその担当委員だ。ハンガリーのオルバン首相の与党はEU批判が激しすぎると党員資格停止中だが、ポーランドさらにヴィシェグラード協定でグループをなしているチェコとスロバキアが反対。アイルランド、クロアチア、ラトビア等の党員党も同調した。
こうして、トゥスク大統領(欧州理事会議長)の説得にもかかわらず、決裂のまま7月1日の朝を迎えたのであった。