最新記事

軍事

竹島上空に中ロの爆撃機、両国の接近を軽視できない3つの理由

2019年7月29日(月)17時00分
フランツシュテファン・ガディ

ロシアは中国との軍事協力を強化している REUTERS

<中国とロシアが日本海と東シナ海上空で初の合同パトロールを実施。アメリカへの対抗意識が中ロを結ぶ>

7月23日、中国とロシアの空軍は日本海と東シナ海上空で初の合同パトロールを実施、核兵器搭載可能な長距離爆撃機4機(中国のH6K2機とロシアのTU95MS2機)も参加した。ロシア国防省は「世界の安定強化」が目的だったと説明したが、今回の合同飛行が地政学的に重要な理由は3つある。

第1に、今回の合同飛行はアメリカとその同盟国に向けたメッセージだった。アメリカが核政策を転換し、核軍縮体制が崩壊するなか、中国とロシアは直接軍事協力はしないが、政治的には意見を同じくしていくというものだ。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領は6月の共同声明で「軍縮、武装解除、不拡散に関する既存の合意を壊そうとするいかなる試みも受け入れ難い」と力説した。

朝鮮半島沖を選んだのはアメリカのミサイル防衛構想への憤りを示すためだろう。長距離レーダーを含むTHAAD(高高度防衛ミサイル)システムをアメリカが朝鮮半島に配備するのは「無謀」で、地域の「戦略的均衡」を壊しかねないと、中ロは繰り返し懸念を表明。特に中国はTHAAD配備が自国の報復攻撃能力を脅かすのではないかと危惧している。

さらにトランプ米大統領は米ロに中国も加えた新たな核軍縮条約の模索に関心を示している。中国は交渉参加の意思を示していないが、核をめぐる中ロ「統一戦線」は、将来アメリカとの軍縮交渉で両国の立場を強化し得る。地上配備型の中距離弾道ミサイル・巡航ミサイルに関して中国やロシアから譲歩を引き出すこともはるかに難しくする。

第2に、今回の合同飛行は中ロの空での技術協力が新たな段階に入り、両国の軍事力が拡大していることを浮き彫りにする。NATOのような相互運用性は不要だが、中国国防省によれば合同飛行の目的は「合同作戦能力の向上」だという。合同空中給油ができるほどの相互運用性が実現すれば、地域の戦略的均衡に重大な影響を及ぼしかねないと、専門家は指摘する。

あくまでも「パートナー」

第3に、中ロの爆撃機の合同飛行は両国の軍事的関係強化を浮き彫りにする。中国は24日に発表した新・国防白書で「中ロの軍事的関係は高度な発展を続け、両国の新時代の包括的・戦略的パートナーシップを強化し、世界の戦略的安定維持に重要な役割を果たす」と主張。昨年9月には極東でのロシアの大規模軍事演習に中国の地上部隊が初めて参加した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中