最新記事

人権問題

プラユット首相続投でタイ軍政が言論統制強化 反体制活動家らが謎の失踪や殺害

2019年6月7日(金)17時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

死体で発見された活動家2人

2018年12月12日にはラオスで事実上の亡命生活を送りながら反王政・反軍政の活動をしていたスラチャイ・セーダーン氏(78)と同氏の側近のグライデート・ルールート氏(46)、チャチャル・ブッパワン氏(56)(通称"プーチャナ")の3人が行方不明になったことをAFPなどが伝えた。

3人の活動家は2014年にクーデターでインラック政権が倒されて軍政が政権を掌握したのを機にラオスに出国、そこを拠点に海外での評論活動を続けてきた。当時ラオスには軍政の追及を逃れるために数10人のタイ人活動家が逃げ込んだといわれている。

スラチャイ氏は75歳ながら元タイ共産党幹部という筋金入りの反軍政、反王政活動家で国内外に支援者も多く、ネットラジオを通じた活動を続けていた。

そして2週間後の12月27、29日にタイ東北部、ラオスとの国境を流れるメコン川で男性2人の遺体が相次いで発見された。遺体は顔面をひどく損傷され、内臓が取り出されてコンクリートが腹部に詰められていたという。

1カ月後の2019年1月22日、2遺体のDNA照合などの検死結果や、親族の確認などから遺体がグライデート氏とプーチャナ氏であると身元が判明した。スラチャイ氏は依然として行方不明のままで安否が気遣われている。

人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、上記の6人の他にも過去5年間でラオス在住のタイ人活動家5人が行方不明になっており、スラチャイ氏とともに深刻な状況に陥っている可能性があると警告を発している。

プラユット首相続投でさらに弾圧強化か

タイでは1月26日に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に難民申請をしようとしていたベトナム人人権活動家でブロガーのトゥルオン・ドゥイ・ナット氏がバンコク近郊で行方不明となる事件が起きた。

その後ナット氏はタイ当局の了解を得たベトナム秘密警察のメンバーらしき人物らによってタイ国内で拉致された後にベトナムに移送され、ハノイにある警察施設に収監されていることが判明した。

こうした事例からタイ、ベトナムはそれぞれ国外で活動する人権運動家、民主化活動家やブロガーなどへの監視を強め、その情報収集や身柄拘束、移送などで協力体制を築いている可能性も指摘されている。

タイでは5月4日の新国王戴冠式の際、英BBC放送の映像が遮断され、タイ国内での視聴が不可能になる事件も起きた。
人権重視で反軍政の姿勢をとるBBCの戴冠式に関連する生中継を軍政側が阻止したものとみられ、画面には「番組は間もなく再開される」という字幕のみ表示されるという異例の措置がとられた。

軍政によるこれまでのこうした反軍政、反王政の言論、報道、活動を制限する動きは、プラユット首相の続投が決まったことで今後もさらに継続、強化されるものとみられ、タイ国内外の人権団体や報道機関そして活動家たちは戦々恐々としている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ロシアへの武器供給否定 ゼレンスキー氏に反論

ワールド

インド政府、外国企業誘致へ原子力賠償責任法改正を計

ワールド

ウクライナ鉱物資源協定、26日までの協議完了目指す

ビジネス

米からスイスに金地金が戻り始める、トランプ関税対象
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中