最新記事

ペット

イヌは人間の心を動かす表情を進化で獲得した......ではネコは?

2019年6月27日(木)11時50分
秋山文野

「子犬の目」ができるよう進化した...... WCNC-YouTube

<英ポーツマス大学の研究者による、イヌは眼の周りの表情を高度に変えられる進化し、ヒトとの間で高度なコミュニケーションが可能になったとする論文が話題。では、ネコは......?>

イヌは、ヒトと絆を結ぶためのある筋肉を持っている、という論文が話題になっている。2019年6月17日付で米科学アカデミー紀要に掲載された論文『Evolution of facial muscle anatomy in dogs(イヌの顔面筋の解剖学的構造の進化)』は、およそ3万3000年前に始まったとされるハイイロオオカミからイエイヌへの家畜化の過程で、イヌの顔面の筋肉の構造が変化し、ヒトとの間で高度なコミュニケーションが可能になったことを示すものだ。

ポーツマス大学のジュリアン・カミンスキーらの発表によると、内側眼角挙筋(LAOM)外側眼角後引筋(RAOL)と呼ばれる眼の周りの筋肉は、オオカミよりもイヌのほうが発達していた。イヌの中でもオオカミに近いシベリアンアスキーの犬種では、RAOLはあまり発達していないという。

F1.large.jpg

イヌとオオカミの表情筋 Image courtesy of Tim D. Smith (Cambridge University Press, Cambridge, UK)

この2つの筋肉によって、「AU101」という眼を大きくつぶらで表情豊かに見せるしぐさが可能になる。イギリス国内の保護犬シェルターの27頭のイヌと、保護されている9頭のオオカミを比較したところ、イヌは初めて会うヒトに対し、オオカミよりもはるかに顕著に「AU101」のしぐさを見せた。

「AU101」のしぐさは、イヌの眼を大きく、少し悲しげで幼い「子犬のような目」に見せる効果がある。イヌを保護し、かわいがってやりたいという情緒的な反応を人間から引き出すことができ、シェルターに保護されたイヌの場合は里親が見つかりやすくなるという。ヒトとイヌとの関係の中で、可愛らしい眼の表情を持ったイヌはヒトに保護されて子孫を残す確立が高くなり、さらにこの形質が強まったと考えられる。この進化のプロセスは現在も続いているという。

それだけではなく、イヌが眼の周りの表情を高度に変えられることが、ヒトとのコミュニケーションの相互作用を生んだとカミンスキー博士らは述べている。ヒトはコミュニケーションの中で眼の周りの表情を重んじ、眉の動きは言葉への注意を高める手がかりとして働く。

もともとオオカミは他のイヌ科動物に比べて明るい色の虹彩を持ち、このことでヒトはオオカミの眼や視線に注意を向けやすくなった可能性があるという。特徴的な眼を持ったオオカミと一緒に生活するうちに、人間同士と同じように視線や眉の動きでコミュニケーションができるという感覚が人間の側に生じ、呼応するようにそうしたしぐさが上手な種としてイヌは進化してきたという考え方だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産

ビジネス

焦点:米国市場、FOMC後も動揺続く恐れ 指標の注

ビジネス

住商、マダガスカルのニッケル事業で減損 あらゆる選

ビジネス

肥満症薬のノボ・ノルディスク、需要急増で業績見通し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中