喧伝される「勝利」に潜む、フィリピン麻薬戦争の暗い現実
ドゥテルテは麻薬撲滅という大義名分の下に超法規的殺人を黙認 LEAN DAVAL JR.ーREUTERS
<超法規的殺人が横行、刑務所は超過密状態――その場しのぎの対応が悪循環を生む>
フィリピンのドゥテルテ大統領が、自身の看板政策である「麻薬戦争」について国際刑事裁判所(ICC)で追及されるかもしれない。6月7日、国連人権理事会が任命した専門家らはこの問題について独立した調査の実施を理事会に要請した。
「フィリピン各地で明らかに超法規的に大量殺人が行われていることを非常に憂慮する」と専門家らは報告書で指摘した。ドゥテルテが大統領に就任した16年以降、麻薬撲滅作戦による死者はフィリピン政府によれば約5300人。一方、人権団体は2万~3万人が殺害されていると主張している。
しかし、フィリピンだけでなくアジア各地で麻薬戦争のニュースが注目を集めている今、その効果を疑ってみる価値はある。単刀直入に言って、こうした麻薬戦争は実際に効果を上げているのだろうか。
明言はできないが、いくらか答えになる証拠はある。例えば国際薬物政策連合(IDPC)は今年2月の報告書で、これらの政策は大して成果を上げていないと結論付けた。東ティモールの元大統領で現在は国際NGOの薬物政策国際委員会のメンバーであるジョゼ・ラモス・ホルタは、フィリピンを含むアジアで続く麻薬戦争の継続について次のように書いている。
「このままでは、疑わしいというだけで超法規的に大勢の人々が殺害され(フィリピンでは過去3年間で2万7000人以上)、薬物依存からの更生という名目で身柄を拘束され(アジア全域で30万人以上)、超過密状態の刑務所に収監されている(アジアの刑務所に収監されている人の50~80%が薬物犯罪者)状況が引き続き悪化するのを、各国政府が容認するという合図になるだろう」
政府による麻薬戦争は効果があるからではなく、国民を結束させて政治的目的を確実に達成しようという思惑に根差しているとする見方もある。東南アジアの犯罪に詳しいアメリカ人ジャーナリストのパトリック・ウィンは、アジアの麻薬取引に関する著書の中で、ドゥテルテの麻薬戦争は社会的脅威に対する道徳的な戦いであり、有効かどうかに関係なく、手段が目的を正当化すると指摘している。
問題の根元は社会矛盾
とはいえ、麻薬戦争を単なる政治的動員の手段と見なすことは、民衆を麻薬に走らせる状況の根底にある社会や経済の問題に取り組んでいないのと同じく、何の役にも立たないだろう。麻薬戦争を行ったところで、系統立った構造改革なくして麻薬問題がなくならないのは明らかだ。
根底にある問題に取り組まない限り、アジアでは麻薬の問題が今後も残り、深刻な結果を招くだろう。