最新記事

中東

米イラン戦争を回避する方法はある

How to Prevent an Accidental War With Iran

2019年6月1日(土)14時00分
スティーブン・サイモン(アマースト大学教授・元米国家安全保障会議シニアディレクター)、リチャード・ソコルスキー(カーネギー国際平和財団シニアフェロー)

アメリカとイランの間には、従来の船橋間無線通信を除けば、船舶衝突を防止する仕組みが公式・非公式を問わず存在しない。協力すれば、この手の取り決めは比較的早期に実現可能だ。

一方、イエメンでサウジアラビアとホーシー派の対立激化を防ぐため、交渉や規範遵守目的のチャンネル、少なくとも危機勃発の際に意思疎通を図る窓口の設置をサウジアラビアとイランに促してはどうか。

最大のリスクは同盟国

各国海軍間の信頼醸成努力を再開する道もある。日米中など21カ国は14年、西太平洋海軍シンポジウムで「海上衝突回避規範」に合意した。だがペルシャ湾では、イラン革命防衛隊の反対のせいでそうした枠組みが実現していない。アメリカは欧州の同盟国やロシアを通じて、イランに再考を迫りたいところだ。

最大のリスクは、アメリカとイランそれぞれの同盟国や代理勢力の行動かもしれない。独自の目的や思惑がある彼らを制御するのは容易ではない。

米政権はイスラエルやサウジアラビアに、イランからの直接攻撃に反撃を行うことは認めるが、アメリカとイランの軍事衝突を招く行動は受け入れないと言明すべきだ。イランも代理勢力に同様の言明をすべきだ(イラク政府は既に国内のシーア派民兵組織に、アメリカによるイラン攻撃を正当化しかねない行動は慎むよう警告している)。

イラン政府は対米戦争を望んではいないはずだ。しかしこれらの衝突防止策に、あるいはアメリカとの交渉にさえ同意するかは見通せない。イランのジャバド・ザリフ外相は先日、緊張緩和に向けた米政権との交渉の「可能性はない」と発言した。

現時点で、偶発的事件がアメリカとイランの武力衝突に発展する危険性は恐ろしく高い。現場レベルでの危機管理・紛争防止措置を講じるのは、イランとの交渉や緊張緩和を実現する上でリスクの低いやり方だろう。トランプが本気で「反戦」を唱えているなら、イランとの衝突回避に向けた議論を今すぐ始めるよう側近に命じるべきだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年06月04日号掲載>

20190604cover-200.jpg
※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。


20250128issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月28日号(1月21日発売)は「トランプの頭の中」特集。いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁ら、緩やかな利下げに前向き 「トランプ関

ビジネス

中国、保険会社に株式投資拡大を指示へ 株価支援策

ビジネス

不確実性高いがユーロ圏インフレは目標収束へ=スペイ

ビジネス

スイス中銀、必要ならマイナス金利や為替介入の用意=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 7
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 8
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中