最新記事

米外交

ベネズエラ危機、独裁打倒の失敗とアメリカの無責任

Will Guaidó’s Gamble Pay Off?

2019年5月9日(木)16時20分
クリストファー・サバティーニ(コロンビア大学国際公共政策大学院講師)

00年代後半には、デモは市民が政治に参加するほぼ唯一の手段となった。チャベスや、その後継者として13年に大統領となったマドゥロに抗議しようにも、選挙や司法の道が閉ざされたからだ。そこで、政府に不満を抱く市民は街頭に出た。自分たちの行動によって、政権内や軍に離反者が出て、政権が内部崩壊することを期待しながら。

今年1月に暫定大統領に就任すると宣言し、多くの外国政府から支持を受けているグアイドも、同じシナリオを描いて行動した。まず、暫定大統領就任でマドゥロ政権の分断を狙った。それが失敗に終わると2月22日には人道支援を呼び掛け、コロンビアからの支援物資の搬入を試みた。いずれも、軍上層部や政権内部からの離反を期待したものだった。

この数年でベネズエラで最も信頼され、動員力のある民主的な指導者による政権打倒の挑戦は、果たして失敗だったのだろうか。これまでも多くの反政府指導者が、市民の期待を膨らませるだけで成果を上げられず、揚げ句に戦略や指導力をめぐる内紛を起こして消えていった。グアイドも現時点では、彼らの失敗例と何ら変わるところがないように見える。

そこで背景に浮かび上がってくるのが、アメリカの政策だ。トランプ政権は、腐敗や不正、人権侵害などを理由に、マドゥロ政権の圧政への関与が疑われる個人を対象にした国際的な制裁を主導している。今のところ約500〜600人が対象とみられており、アメリカ入国に必要なビザの発行禁止や、資産凍結などを行っている。グアイドの暫定大統領就任による政権打倒が失敗に終わると、石油の禁輸を行い、ベネズエラ中央銀行を制裁対象に加え、マドゥロ政権を支援するキューバへの渡航制限強化を発表した。

3カ国封じ込めの一環

ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、中間選挙を翌週に控えた昨年11月1日に、フロリダ州マイアミで演説を行った。そこはベネズエラやキューバからの移民が多い場所だった。

このとき以来、トランプ政権は対ベネズエラ政策と対キューバ制裁強化を関連付けるようになった。これは、ボルトンが「暴政のトロイカ」と呼ぶキューバとベネズエラ、ニカラグアの3カ国に対する広範な封じ込め政策の一環だ。

キューバとベネズエラを同時に締め付ければ、キューバはマドゥロ政権への支援をやめるだろう、そしてベネズエラの政権が代わればキューバへの石油供給は止まり、宿敵キューバの政権は沈没する。ボルトンらはそんなシナリオを描いていた。

だが、それは願望にすぎない。両国に圧力をかけることと、それぞれの国で政治的な変化が起きることの論理的なつながりはどこにも明示されていない。

キューバ経済を痛めつけ、革命後に接収された米企業の資産に投資する第三国企業への訴訟提起をちらつかせるといった制裁を強化すれば、苦しくなったキューバは一段とベネズエラにすり寄るかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中