最新記事

台湾

トランプ大統領と会談した郭台銘・次期台湾総統候補の狙い

2019年5月6日(月)12時30分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

そこで「中華民国」国旗とアメリカ国旗をあしらった帽子をかぶってトランプ大統領と会談するという手に、郭氏は出たものと解釈する。

中国政府元高官「独立しなければ、それで十分」

こんなことで北京が納得するのだろうか。

「デキレース」だとは思うが、念のため中国政府の元高官に聞いてみた。

すると、以下のような回答が戻ってきた。

――台湾に関しては、要するに独立を叫ばなければ、それでいいのです。現状を変えなければ、しばらくはそれで十分。さもないと、中国には「反国家分裂法」があります。郭台銘なら、それを発動しなければならないような状態にはならない。何と言っても彼は習近平の母校である清華大学経済管理学院顧問委員会の委員ですからねぇ......。

たしかに――。

拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』のp.178に「郭台銘」の名前がある。これは「デキレース」以上のものかもしれない。

郭氏はトランプ大統領に会う直前の4月30日に、米中ハイテク戦争に対応するための彼の3大目標は「台湾獲利、美国(米国)達標、中国轉型成功」だと言っていた。

「美国達標」は「衰退してしまったアメリカの製造業を取り戻すという目標を、アメリカが達成すること」で、「中国轉型成功」とは、まさに『中国製造2025」の衝撃』に書いたように、「中国が組み立てプラットホームから抜け出してハイテク国家戦略<中国製造2025>を達成して成功すること」を指す。

「台湾はその米中の間で利益を得る」というのが「台湾獲利」だ。

トランプ大統領と気軽に会える郭氏なら、ひょっとしたら台湾総統になってからもホワイトハウスに行くという、前代未聞のことをやってのけるかもしれない。

親中だと批判する前に、このあり得ない可能性と、それが引き出すかもしれない新しい米中台関係を見てみたい気がしないでもない。


endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加

ワールド

トランプ米大統領の優先事項「はっきりしてきた」=赤

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも30人死

ワールド

米がウクライナ和平仲介断念も 国務長官指摘 数日で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中