トランプ大統領と会談した郭台銘・次期台湾総統候補の狙い
そこで「中華民国」国旗とアメリカ国旗をあしらった帽子をかぶってトランプ大統領と会談するという手に、郭氏は出たものと解釈する。
中国政府元高官「独立しなければ、それで十分」
こんなことで北京が納得するのだろうか。
「デキレース」だとは思うが、念のため中国政府の元高官に聞いてみた。
すると、以下のような回答が戻ってきた。
――台湾に関しては、要するに独立を叫ばなければ、それでいいのです。現状を変えなければ、しばらくはそれで十分。さもないと、中国には「反国家分裂法」があります。郭台銘なら、それを発動しなければならないような状態にはならない。何と言っても彼は習近平の母校である清華大学経済管理学院顧問委員会の委員ですからねぇ......。
たしかに――。
拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』のp.178に「郭台銘」の名前がある。これは「デキレース」以上のものかもしれない。
郭氏はトランプ大統領に会う直前の4月30日に、米中ハイテク戦争に対応するための彼の3大目標は「台湾獲利、美国(米国)達標、中国轉型成功」だと言っていた。
「美国達標」は「衰退してしまったアメリカの製造業を取り戻すという目標を、アメリカが達成すること」で、「中国轉型成功」とは、まさに『中国製造2025」の衝撃』に書いたように、「中国が組み立てプラットホームから抜け出してハイテク国家戦略<中国製造2025>を達成して成功すること」を指す。
「台湾はその米中の間で利益を得る」というのが「台湾獲利」だ。
トランプ大統領と気軽に会える郭氏なら、ひょっとしたら台湾総統になってからもホワイトハウスに行くという、前代未聞のことをやってのけるかもしれない。
親中だと批判する前に、このあり得ない可能性と、それが引き出すかもしれない新しい米中台関係を見てみたい気がしないでもない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。