最新記事

台湾

トランプ大統領と会談した郭台銘・次期台湾総統候補の狙い

2019年5月6日(月)12時30分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

これを可能ならしめたのは、2017年7月27日に、郭氏が経済人としてワシントンに飛び、トランプ大統領とホワイトハウスで会談したという経緯があるからだ。「アメリカ第一」を掲げて、他国がアメリカから雇用を奪っているとして激怒したトランプのご機嫌を損ねまいと、世界中から多くの経済人がトランプ詣でをしたが、この機を逃さず、大型投資を引っ提げてトランプとの会談を実現させた郭氏の手腕と俊敏さは注目に値する。

この第一回目の会談がなかったら、今般の臨機応変の会談も実現しなかっただろう。

そもそも郭氏は、2016年12月、ドナルド・トランプ氏が大統領に当選したその1ヵ月後に、すばやくアメリカに対する大型投資を決めていた。

この対米大型投資計画を郭氏は「フライング・イーグル(Flying Eagle)計画」と命名した。

かつて日中戦争時代に国民党軍は蒋介石(後に総統)の宋美齢夫人を通して、アメリカから空軍の支援を取り付けており、それを「フライング・タイガーズ(Flying Tigers、中国語では飛虎隊)」と称していたが(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)、この言葉をもじって、今度は台湾(国民党)がアメリカを緊急支援するという意味で、「フライング・イーグル」と命名したものと思う。

この下準備の下に第一回の「トランプ・郭台銘」会談が成立したのだが、会談において郭氏はトランプ大統領に「100億ドル(約1兆1500億円)を投じて、ウィスコンシン州に最先端の8Kを含む液晶ディスプレイ(LCD)パネル工場を建設する」と約束した。

それだけでなく、郭氏は続けてミシガン州でも自動車産業分野に数十億ドルを投資する計画だと、同年8月6日の香港「経済日報」が明らかにしている。

心憎いではないか。

ミシガン州と言えば、アメリカの自動車産業の心臓部・デトロイトがある場所だ。トランプ大統領の支持基盤である中西部ラストベルト(Rust Belt。錆びついた元工業地帯)だ。郭氏はそこに集中的に投資しようとしたのである。

あのとき既に中文メディアでは「郭台銘は台湾のトランプか?」という視点で郭台銘を位置づけていた。

したがって4月17日に郭氏が2020年の台湾総裁選に国民党から出馬することを表明した時には、「おお、遂に来たるべきものが来たか!」と筆者は感慨深くこの情報を受け止めた。

というのも、2017年7月にトランプ大統領と約束したはずの対米投資は一向に進んでいなかったために、今年2月1日にトランプ大統領が郭氏に電話をしてきて、計画の継続を要請してきたという報道を知っていたからだ。2月2日、台北市内で開いた社員の慰労会で、郭氏はトランプ大統領から前日電話があったことを明らかにした上で、「ウィスコンシン州に液晶パネル工場を建設する計画は予定通り進める」との声明を発表している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中