トランプ大統領と会談した郭台銘・次期台湾総統候補の狙い
これを可能ならしめたのは、2017年7月27日に、郭氏が経済人としてワシントンに飛び、トランプ大統領とホワイトハウスで会談したという経緯があるからだ。「アメリカ第一」を掲げて、他国がアメリカから雇用を奪っているとして激怒したトランプのご機嫌を損ねまいと、世界中から多くの経済人がトランプ詣でをしたが、この機を逃さず、大型投資を引っ提げてトランプとの会談を実現させた郭氏の手腕と俊敏さは注目に値する。
この第一回目の会談がなかったら、今般の臨機応変の会談も実現しなかっただろう。
そもそも郭氏は、2016年12月、ドナルド・トランプ氏が大統領に当選したその1ヵ月後に、すばやくアメリカに対する大型投資を決めていた。
この対米大型投資計画を郭氏は「フライング・イーグル(Flying Eagle)計画」と命名した。
かつて日中戦争時代に国民党軍は蒋介石(後に総統)の宋美齢夫人を通して、アメリカから空軍の支援を取り付けており、それを「フライング・タイガーズ(Flying Tigers、中国語では飛虎隊)」と称していたが(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)、この言葉をもじって、今度は台湾(国民党)がアメリカを緊急支援するという意味で、「フライング・イーグル」と命名したものと思う。
この下準備の下に第一回の「トランプ・郭台銘」会談が成立したのだが、会談において郭氏はトランプ大統領に「100億ドル(約1兆1500億円)を投じて、ウィスコンシン州に最先端の8Kを含む液晶ディスプレイ(LCD)パネル工場を建設する」と約束した。
それだけでなく、郭氏は続けてミシガン州でも自動車産業分野に数十億ドルを投資する計画だと、同年8月6日の香港「経済日報」が明らかにしている。
心憎いではないか。
ミシガン州と言えば、アメリカの自動車産業の心臓部・デトロイトがある場所だ。トランプ大統領の支持基盤である中西部ラストベルト(Rust Belt。錆びついた元工業地帯)だ。郭氏はそこに集中的に投資しようとしたのである。
あのとき既に中文メディアでは「郭台銘は台湾のトランプか?」という視点で郭台銘を位置づけていた。
したがって4月17日に郭氏が2020年の台湾総裁選に国民党から出馬することを表明した時には、「おお、遂に来たるべきものが来たか!」と筆者は感慨深くこの情報を受け止めた。
というのも、2017年7月にトランプ大統領と約束したはずの対米投資は一向に進んでいなかったために、今年2月1日にトランプ大統領が郭氏に電話をしてきて、計画の継続を要請してきたという報道を知っていたからだ。2月2日、台北市内で開いた社員の慰労会で、郭氏はトランプ大統領から前日電話があったことを明らかにした上で、「ウィスコンシン州に液晶パネル工場を建設する計画は予定通り進める」との声明を発表している。