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インドネシア

ジャワサイ、腸内バクテリアで中毒死? 繁殖難しく67頭のみで絶滅の危機

2019年5月4日(土)15時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

漢方薬や装飾品として密猟被害に

ジャワサイは体長が3から3.2メートルで体重が1500〜2000キロと大きく、1本の角が特徴。現在世界に生存する5種類のサイの1種である。角が装飾品あるいは漢方薬として高価で取引されることからかつては密猟で殺害されるケースが多く、それが個体数激減の原因となっていた。

漢方薬の世界ではサイの角は「犀角」として知られ、粉状にして服用すると解熱、解毒、鎮静効果があると言い伝えられているが、実際にそうした薬効があるかどうかは定かではないとも言われている。

同じく絶滅の危機に瀕しているインドネシア・スマトラ島などを主な生息地とするスマトラサイも同様の問題に直面している。

スマトラサイは5種類のサイの中でも全長は2.4〜3.2メートル、体重は600~950キログラムと小柄で、角が2本あるのが特徴。現在はスマトラ島とカリマンタン島(マレーシア名ボルネオ島)などでの生息が確認されているが、IUCNによるとその数は220頭から275頭とされ、年々減少傾向にあるという。

スマトラサイが直面する課題はジャワサイとほとんど同じであり、インドネシア政府は2種類絶滅の危機に直面したサイの保護と密猟対策だけでなく、今後は飼育による繁殖にいかに取り組むかが焦点となる。

だがジャワサイやスマトラサイの飼育下での繁殖事例は極めて少なく、ジャワサイは現在飼育状態にある個体はゼロ。つまり野生種が絶滅すれば地球上から消えてしまう。で、スマトラサイは2012年6月の成功例を含めてもこれまでわずか4例に留まっているのが実情という。

2018年の事例に続いて今回発見されたジャワサイの死因も同じような「腸のバクテリアによる中毒症状」であることが判明した場合、内臓疾患を引き起こしたこのバクテリアを解明して何らかの対応策を講じることが喫緊の課題で、生物学的、獣医学的見地からの調査研究も求められるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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